(前回から読む) 1918(大正7)年8月12日、神戸川崎町の鈴木商店本店は、二万人の大群衆に取り囲まれた。 青天井で高騰する米価の前に民衆の怒りは頂点に達していた。働けど、働けど暮らしは楽にならない。富山から始まった「米騒動」は、神戸に波及し、鈴木商店が、その標的にされたのだった。 「米買占めの元凶、鈴木を焼き払え!」 「米の値段を釣り上げる悪徳商人を懲らしめろ!」 と、群衆は投石で窓ガラスを割り、その窓から侵入した男が火を放った。天を焦がす紅蓮の炎に民衆は猛り狂い、鈴木本店は瞬く間に焼け落ちた。 じつのところ、鈴木は米を買占めるどころか、政府の意向に沿って米価を下げるために外米をひたすら輸入していた。東南アジアや朝鮮から運び込まれた米は、安値で市場に放出された。 かたや三井物産は、息のかかった米商人を使って買占めた。子飼いの商人をダミーに使い、三井物産は、騒動に高みの見物をきめこんでい