予備知識なしに読み始めたのだけどおもしろかった。それに懐かしかった。それがうれしかった。 一流広告代理店を辞めた佐倉涼平が再就職したのは個人商店から出発した食品会社。入社早々のしくじりで異動を命じられた先は「お客様相談室」。実は、リストラ要員ばかりを集めた部署だった。ひとくせもふたくせもある同僚たちとお客からのクレームに対処するうちに、涼平はあることに気づく…。 青春小説で、成長小説で、サラリーマン小説で、そして恋愛小説で。そういう多層的なところが大きな魅力だ。 そして成長小説やサラリーマン小説であるところに、僕はとても懐かしさを覚える。30年くらい前はそういう小説がたくさんあったからだ。中間小説。純文学と大衆小説の中間に位置する小説を昔はそう読んだものだ。たとえば曾野綾子の「太郎物語」や「海抜0メートル」なんかで、学生のころの僕はそういう作品を繰り返し読んでは、数年先の自分の将来がどんな