結婚して10周年の節目を、錫婚式と呼ぶらしいよ。 そんなことを言うなりペリカンのカタチをした可愛らしいコーヒードリッパーを渡される。若くして結婚したけれどそうか、もう10年も経つのか。わたしの感慨はさかなになって、25.5畳のリビングを照れ隠しのように飛んで跳ねて揺蕩う。ああ、好きだなぁ。10年いっしょにいるんだものな。普段はそんな愛のキャッチボールなんてしないんだから、直球しかもう愛がわからない。わたしは力一杯弓を引き、好きだなぁの矢を放つ。縦横無尽に放たれる矢は、光の速さで家中に突き刺さり白無垢の壁を穴だらけにした。その矢は照れでできており、矢が琴線に触れたのか、はたまた同じ気持ちであったのかなんなのか、照れ臭そうにわたしのプレゼントをぎこちなく開け始めると、カシャカシャとペリカンドリッパーを組み立て始めて、勝手にコーヒーを淹れ始めた。わたしのペリカンだぞ卑怯者め、こっちを向けよう。