今月の最大の収穫は、高橋弘希(ひろき)の新潮新人賞受賞作「指の骨」(『新潮』)である。著者は三十代半ばの若手だが、その端正な文体は豊かなイメージ喚起力を備え、それでいて抑制を崩すことなく、情動におぼれず、兵士たちの不毛な死という強烈な主題を精確に見つめている。とても若手作家のデビュー作とは思えない。 小説の主題は、これまた若手作家にはいささか古風にも思える、太平洋戦争時の南洋における日本軍の悲惨な戦争体験である。それを淡々と描いていく筆致には、いまどきのポストモダン的な奇想はなく、むしろ古風なリアルさに徹しているとも言える。ただし、派手な戦闘シーンはなく、大部分は「私」が収容された野戦病院の日常である。 ここでは兵士たちが将棋に興じたり、現地の住民と交流したり、といった平和な光景が時に繰り広げられるものの、彼らは皆、傷病に蝕(むしば)まれ、死を待つばかりとなっている。そして、衰弱した兵士た
榎本は創作の際、必ず本やインターネットで題材について調べる。「思いつきで言葉を並べているわけじゃないですよ」と笑う(東京都小平市で)=長沖真未撮影 榎本櫻湖(さくらこ)(27)は、東京都小平市にある実家の8畳間で、書籍に埋もれながらパソコンに文字を打ち込んでいた。 〈広葉樹林からの呼気を浴び、水際ではしゃぐ亀の甲羅を撫(な)でる細い腕……〉 つづるのは現代詩。音楽や景色などの事物を題材に、文章を切れ目なくつなぐ独特のスタイルだ。自由奔放に言葉が並ぶ作品は「難解」とも評される。 「言葉は見えないものさえも表せる。それを追求しているだけ。私、とがっているんです」 子供時代は周囲との違いに苦しんだ。 小中学生の時、同級生が好きなテレビ番組などに興味が持てず、「変な子」と避けられた。遊んでほしくて同級生に1人1万円ずつ渡したことも。男なのに体育の授業で着替える際、裸を見られるのが嫌だった。同級生の
目次は、こちら 作品 壺阪輝代 菅野眞砂 斎藤恵子 小野ちとせ 網谷厚子 樋口忠夫 伊丹悦子 平岡緑 相沢正一郎 結城文 重光はるみ 金子秀夫 沢聖子 鈴切幸子 雪柳あうこ 森原直子 藍川外内美 荻悦子 後山光行 久保木宗一 伊藤芳博 滝本勤 二宮清隆 井上和之 宮尾壽里子 小林登茂子 渡邊那智子 関中子 長尾雅樹 こまつかん 志田道子 本郷武夫 ついきひろこ 北野つづみ 青柳泉 繭中舞百合 谷口明美 いだ・むつつぎ 野本篤美 山下重人 石井也子 茨海ゆう 伊藤恵理美 有田和未 駒井喜久子 和崎くみ子 菅秀俊 井上和子 松井潤 うえじょう晶 水越晴子 柴田秀子 福間明子 小山修一 倉田史子 高橋裕子 滝本政博 門田璃瑠子 潮江しおり 加川清一 三村美代子 松田道弘 長友セージ 田中淳一 市野みち 阪井達生 田尻文子 青木美保子 近江正人 青山勇樹 中島めい子 むらやませつこ 青柳晶子 くろ
南米ボリビアに生まれ、独裁政権の迫害を逃れてスペインに亡命した日系詩人、ペドロ・シモセさん(72)の詩集が現代企画室(東京都渋谷区)から出版された。移民として苦労した父への思い、抑圧に対する怒り――。翻訳したのは、40年近く前に彼の詩に触れ、心を揺さぶられた男性だった。 シモセさんは、ボリビアのベニ県リベラルタ市生まれ。山口県から移住した父と、現地の日系人を母に持つ。幼い時から詩才を発揮したが、南米各国の独裁体制に反対する作品が当時のバンセル政権ににらまれ、1971年に亡命した。現在はマドリードで暮らす。 今回、出版された詩集「ぼくは書きたいのに、出てくるのは泡ばかり」は、亡命先で72年に出版された同名の詩集などから94点を収録。荒れ果てた土地を開墾した父や、抑圧されたラテンアメリカの人々への思い、詩を書きたいと願いながら思い通りにならない悲痛な心情などが、作品に込められている。 いつか、
The Lexicon of the Complete Poems of Emily Dickinson by myself, 2004 古い書類の中から、滞米中の2004年の夏に個人的な喜びのために反古で作ったエミリー・ディキンソン(Emily Elizabeth Dickinson, 1830–1886)という19世紀のアメリカの詩人の全詩の語彙集が出て来て、しばらく眺めていた。毎朝こつこつと単語を拾い、記録し続けていた。至福の時だった。画期的だと自負していたのは、ディキンソンが使った単語だけでなく、「MARKS」とある、いわゆる約物までその種類と頻度を記録している点だった。独りよがりもはなはだしいが、今となっては懐かしい思い出である。ちなみに、約物のなかではダッシュ(ダーシ)の頻度が最も高かったことが印象に残っている。
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