苦しみの無い世界=理想郷の希求は人類誕生以来の、いかなる時代も地域も国も人種も超えた普遍的な願いであった。キリスト教的なパラダイス(楽園)の概念は、十六世紀英国の作家トマス・モアによって名付けられたユートピアの誕生によって、苦しみの無い世界の社会・共同体のあり方がどのようなものかを描くことに軸足が移る。「ユートピア」の希求は清教徒革命、アメリカ独立、フランス革命と産業革命を通じて社会的平等と公正を重視した理想社会を浮かび上がらせて社会主義を胚胎し、やがて近代社会に大きな影響を与えた。 一方、日本にも大きな影響を及ぼしてきた中国では、楽園はどのような描かれ方をしてきただろうか。本書で描かれるのは、桃源郷を始めとする様々な中国の楽土=楽園思想である。 現実ではないもう一つの世界として、古代から不老長生を実現できる「神仙界」がどこかにあると考えられた。秦の始皇帝を始めとする帝王たちは不老長生の薬
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