高校生の頃に愛読していた「ご冗談でしょう、ファインマンさん」に、哲学専攻のゼミで「一個のレンガは本質的対象か?」という議論をするエピソードが出てくる。ごく簡単な質問でも、哲学のゼミが紛糾してしまうという、哲学嫌いなファインマン先生らしいエピソードのひとつだ。自分にも似たような経験がある。やはり高校生の頃、とある先輩によくある議論を吹っかけられたことがある。 「とある大きな森の中で、1本の木が倒れたとする」 「はあ」 「あまりにも大きな森なので、それを目撃した人間は一人もいないのだ」 「へえ」 「そのとき、その木は倒れたといえるか? お前はどっちだと思う?」 「それは倒れたんでしょう」 「……即答だなあ、何でそう思うんだよ」 「だって先輩、最初に木が倒れたって設定しましたよね。だから倒れたんじゃないですか」 「いや俺が言いたいのは、誰も見ていない事象は発生していないとも言えるのではないかと」