先日、スティーブン・キングの『ミザリー』の原書を久々に読み返していたところ、いままで気付いていなかった、細かいが重要な仕掛けを発見した。その仕掛けは残念ながら日本語版では再現されていないため、これを知らない日本の読者も多いだろう。後で述べるが、キングは小説というメディアの特徴をうまく利用した仕掛けを施すのが好きな小説家であり、本書にもそれがよく表れている。訳者の矢野浩三郎と文藝春秋社はそれを高い水準で再現しているものの、画竜点睛を欠いてしまっているので、それを補うためにここでその仕掛けを紹介したい。 なお、本稿はその性質上、『ミザリー』の重要な筋書を(すべてではないが)バラしてしまっている。同書を未読の方は、ぜひここでブラウザを閉じて、先に同書に目を通していただきたい。『ミザリー』は、「モダンホラーの帝王」とまで呼ばれたキングが、現実を超えた存在ではなく、現実に存在しうる人間の恐しさを題材