「心の理論」仮説と『哲学探究』 アスペルガー症候群[から/を]見たウィトゲンシュタイン 福本修 I. 小論で私は、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインLudwig Wittgenstein(1889-1951)の哲学的思索が高機能(アスペルガー型)自閉症者の経験構造の表現となっている(「示している」)ことを読むとともに、それが彼にとって極めてリアルであって、彼自身が自閉症的な様態に親和性のあることを論じたい。ここでの自閉症的経験構造一般の理解は、さまざまな仮説がある中で、障害を認知的な角度から見ようとする「自閉症者の『心の理論』欠損仮説」に基づいている。言い換えれば、焦点は記述精神病理学的な症状論の水準にないので、本格的な自閉症の症状が彼に乏しいことは、この方向で考察を進める妨げとならない。彼にはすぐ思い浮かべられるような症状は見られないが、彼の対人関係には自閉症的挿話が満ちている。そしてそ