「苦」と折り合い、やり過ごす 内田 『老師と少年』は、仏教の入門書としてお書きになったんですか。 南 いや、むしろ仏教と私の間にあるズレを表現したいと思っていました。私は一生仏教者でいるつもりですが、ブッダや道元と同じ人間かと問われればそれは違う。だから細かいズレを感じることもあります。「私なりの『お経』を書きたい」と言うと大げさですが、そんな気持ちもありました。 内田 あ、お経ですか。それで、納得しました。そういえば、音読向きのフレーズが多いですものね。「『本当の私』があるとすれば、それは『私』という物語を作らせる病、としか言えない」とか。意味がわからなくても、音読すると響きがいい(笑)。 南 仏教では生きることや存在すること一切を「苦」と呼びますが、私の実感としては、損傷という言葉のニュアンスの方が近い。そう言葉を置き換えることで、「苦」が初めてピンと来る。永遠に解決せずに人を