ここ数年で最も驚いた出来事について書く。筆者がまったく信じていないビジョンを信じている知人に相次いで会ったことだ。 2017年の末、30年近い付き合いの経営者と会食した。数年ぶりに会ったため話が弾み、禁酒中を宣言していたにも関わらず相当飲んでしまい、気持ち良くなっていた時、いきなり質問された。 「谷島さん、シンギュラリティについてどう思いますか。人工知能が進化して世界が一変するという、あの話です」 調子に乗って楽しく話していたこともあって即答した。 「サイエンスフィクションとして楽しんでいる人に文句は言いませんが、本気でそう主張する人がいて困惑します」 彼は頷き、数秒おいてゆっくりと言った。 「色々な人に聞いていますが私の周囲には谷島さんと同意見の人が多い。でも私はその日が来ると信じています」 勿論冗談ですよ、と言って笑うのではないかと相手の様子をうかがうと真顔である。しまったと思ったが後
稀有な発展を遂げたシリコンバレーの良いところは、言い尽くせないほどある。新しいテクノロジーやビジネスモデルが常に生まれ、優れた才能が世界から集まる。起業に挑戦する果敢さも溢れていて、同時に失敗も学習機会として捉えられる。 しかしその一方で、シリコンバレーのひずみや失敗もここ数年明らかになってきた。最大の問題は、シリコンバレーが「勝者」しか住めない町になってしまったことだ。シリコンバレーのスタートアップは、事業の失敗であれば「ピボット(方向転換)」によって成功に導いているのだが、ことにシリコンバレーにおける社会的な失敗は、なかなか修正されそうにない。深く構造的な問題になりつつあるからだ。 シリコンバレー住民の30%が公的サポートに頼る シリコンバレーの社会的な失敗の事例をいくつか紹介しよう。ひとつは貧富の差だ。2016年末に「オープン・インパクト(Open Impact)」というNPOが発表
これからは「チャット」があらゆるサービスのユーザーインタフェース(UI)になる――。米Facebookなどがメッセンジャーアプリケーション(アプリ)のプラットフォーム化を進める中で、シリコンバレーではこのような見方が急速に台頭している。 利用者はもう、スマートフォン(スマホ)のアプリをあれこれ操作したり、検索キーワードを考えたりする必要はない。会話ロボット(ボット)に音声やテキストで“話しかけ”さえすれば、ボットの人工知能(AI)がその意図をくみ取って、買い物をしたり、タクシーを呼んだりしてくれるようになる。Facebookや米Microsoft、米Googleなどが、そのような未来像を喧伝し始めている。 そうは言ってもこうしたシナリオには、二つの疑問がつきまとう。一つはボットのAIがそこまで賢いのか、という問題。もう一つはチャットというUIがそこまで使いやすいのか、という問題だ。残念なが
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