ブックマーク / feel-the-darkness.rocks (35)

  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十五話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 廊下に出て右に行くと、突き当たって左側にテーブルやベンチが設置されたスペースがある。 その場所に人が多くなかったこともあり、窓際まで点滴をぶら下げたイルリガートルを押していき、ベンチに座って電話をすることにした。 イルリガートルからスマホに持ち替えてベンチに座り、電話帳から店舗の電話番号を探して発信する。 左耳にスマホを当てて待つと、二度コールしただけでスタッフが電話に出た。どうやら、今の時間はそれほど混雑してないようだ。 「お電話ありがとうございます。荒川ブックセンター、高田が承ります」 「お疲れさまです、世良田です」 電話に出たのはパートの高田だった。店長不在時、代行として仕事ができるのは中林と、電話に出た高田だけだ。 周りに人がいることもあり、気を使って小声で

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十五話
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十六話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone ケースを開きスマホの画面を見ると、電池が残り三十パーセントを切っている。 この先何日かの入院生活を考えて少々焦り、充電用のケーブルを持ってきてくれたか聞いてみた。 「良美、スマホのケーブル持ってきてくれた?」 「引き出しに入れてある」 「よかった、充電しておこう」 サイドテーブルの引き出しを開け、ケーブルを枕元にあるベッド備え付けのコンセントに差し込み、反対側をスマホにつなぐ。 テレビはカードを買わなきゃ見ることができないし、職業柄かを読む気にもならない。仕事で大量のを扱ってるためか、最近は雑誌すらも表紙を見ただけで満足してしまう。 俺は充電をはじめたスマホをサイドテーブルに置き、ベッドに寝転んで上を見ると、天井の四角い枠の中に蛍の顔が浮かんでくる。 ここのとこ

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十六話
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十七話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 駐車場から病院の前を通る道に出ると、東に向かって通勤ラッシュが終わった道路を走る。時間は朝十時過ぎ、交通量は少なく車は快調に走っていく。 やっと退屈な入院生活から解放されたためか、俺は自然と助手席に座る良美に話しかけていた。 「単調で退屈な毎日だったよ。厚生病院で検査結果を聞いて、大したことがなければ明日から仕事に行けるな」 「お父さんも糖尿病だったから、やっぱり糖尿病なのかしら」 「だとしたら、親父のように毎日インスリン注射だ。子供の頃から毎日見てたから、糖尿病じゃないことを祈ってるよ」 そう言って車窓の向こうに連なる雄大な山並みを見ていると、病院で息を引き取ったときの親父の顔が脳裏に浮かんでくると同時に、父が生前言っていた言葉が甦ってくる。 「そういえば、親父は

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十七話
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十四話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 「良美、売店で水を買ってきてくれないか」 俺はベッドに横になったまま、クローゼットに荷物を収納している良美に向かって、水を買ってきてくれるよう頼んだ。 昨夜からの水分補給が朝の味噌汁と水だけのためか、喉が渇いている。水分が足りなくて瞳まで涙が不足しているような感じだ。 当は冷たいコーヒーでも飲みたいところだが入院した身、ペットボトルの水で我慢することにしよう。 「ちょっと待ってて。着替えをしまい終わったら買ってくるから」 そう言って、良美はテキパキと衣類を片付け、財布を持って病室を出ていった。 今のうちにと思い、イルリガートルを持ってトイレに行き、用を足して病室に戻ると良美が戻ってきている。 「お水、買ってきたわよ。残りは冷蔵庫に入れておくから、喉が渇いたら飲ん

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十四話
  • Feel The Darkness | Gimme Gimme Shock Treatment 其の3

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone ヘンタイロスとザーメインの前に出されたのは、先ほどと同じコハダの寿司である。なぜ同じネタの寿司を握ったのか真意を量りかねてべずにいると、アヘイジの声が聞こえてきた。 「兄さん、そのコハダ、さっきの寿司と違うところがある。それを当ててみてくれ」 そう言うとアヘイジは、右手を寿司に伸ばしたヘンタイロスをジッと見つめた。横を見ると、ザーメインが寿司を口に入れて目を瞑り、真剣な顔でべている。 ヘンタイロスも寿司をつまみ、全神経を集中して頬張った。 違う! 何かが! 確実にッ! 横では口を動かしながらザーメインが首を捻っているが、ヘンタイロスは寿司の違いを確かに感じた。口の中に広がる旨味を味わいながらシャリとコハダを噛めば噛むほど、先ほどの寿司との違いがはっきりしてくるの

    Feel The Darkness | Gimme Gimme Shock Treatment 其の3
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十三話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone ――救急車の通過を知らせる、騒々しいアナウンス。 けたたましく鳴り響くサイレンに叩き起こされて目を開くと、カーテンで仕切られた病室のベッドの上で寝ていた。 (そうだ、店で倒れて入院させられたんだ……) 俺の眠りを覚ましたサイレンが近くで鳴り止んだということは、どうやら朝から急患が病院に運ばれてきたらしい。 ベッドサイドに置いてある腕時計を見れば、まだ朝の六時すぎ。ベッドに腰掛けて背伸びしながら自分の姿を見ると、ワイシャツも着てなくベルトも無い、スラックスに肌着、なぜか下を履いたままの姿である。 昨夜は良美とお袋、お義母さんが来た。家を出ていった良美は実家でお義母さんに諭され、蛍に会ってみる気になりはじめたようだったが……。 病室を漂う料理の匂いに腹が刺激されるせい

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十三話
  • Feel The Darkness | Bastards Can’t Dance

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone お前は凡人 俺は破壊者 毎日の暮らしに満足して幸せを感じるお前 毎日の生活に疲れて絶望を感じる俺の違いさ お前が自分探しの旅をしてるのは 変わらない毎日に飽きてきたから だけど考えてみろよ お前はそこにいるのに なんで自分を探してる? 自己認識して自分を肯定すれば そんなくだらない旅をする必要はないのに 俺は青い海の底深くにある栄光を掴み お前の未来を破壊する 誰かに与えられた幸せに浸り 作られた夢を楽しみながら踊ってろ 戦斧を握り締め お前が崇める偶像を破壊しなきゃならない お前の血で大地を赤く染めるまで 俺は踊れないから 俺は凡人 お前は破壊者 毎日の暮らしに退屈して刺激を求める俺と 全て人任せで頭の中が空っぽのお前の違いさ 誰かに与えられた幸せに浸り 作られた

    Feel The Darkness | Bastards Can’t Dance
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十二話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 「良美! 脚立きゃたつに上ってくれ!」 一階の屋根に付いている雨樋あまどいを外し終えた俺は、季節外れの大雪で壊れた家の雨樋を修理するため、良美に手伝ってもらって新しい雨樋に交換しようとしていた。屋根に付いていた雨樋は雪の重さに耐えられずに破壊され、一階の屋根の真ん中あたりで半分が砕け落ちてしまったのだ。 ホームセンターで買ってきた雨樋を、脚立に乗った良美に下から支えてもらっている間に、もうひとつの脚立に乗った俺が取り付けてしまう段取りである。 まだ寒い春の青空の下、風に吹かれながら縦に伸びる雨樋にパーツをはめ込み、インパクトドライバーを使って屋根にネジ止めしていると、下から支えていた良美の大声が聞こえてきた。 「あなた! まだ終わらないの!」 良美の両腕に限界がきた

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十二話
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第六話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 付録を付けるのはスタッフに任せるとして、カートに置いた雑誌を出してしまおう。今日の商品入荷量では、雑誌に付録を付けてからだと開店時間を過ぎても雑誌が出ない。女性誌は付録付き商品が多く、今日の入荷品の半分近くが付録付きの女性誌だ。 付録が付く雑誌を乗せた台車をレジへ持っていき、俺は残りの雑誌を出してしまうことにした。 女性誌は入り口正面が陳列場所になるため、まず陳列場所に置いてある先月号を撤去し、今日入荷してきた雑誌を平積みにしていく。 雑誌でも冊数が多くなると重い。歳のためか、まとめて雑誌を持つと腰が痛くなってくる。無理して多く持たないよう気をつけ、お客様から見やすく手に取りやすいように平台の奥を高く、手前が低くなるよう陳列を調整し、売れて残数が少なくなった雑誌は棚

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第六話
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第十八話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 一階に降り、玄関を出て庭の奥にある犬小屋が目に入った途端、昨夜からジョニーに餌えさを与えてないことに気づき、慌てて容器を持ってドッグフードストッカーへ小走りに駆けていく。 容器いっぱいにドッグフードを取り出し、ジョニーの元へ行き小さく声を掛けた。 「ごめんな、ジョニー」 クゥ~ン、クゥ~ンと鳴くジョニーに餌を与えると、ジョニーは勢いよくべはじめる。庭にある散水用の水道で水を汲くんで、ドッグフードを入れた容器の隣に置いた。 そういえば、ジョニーを散歩にも連れてってない。これじゃあジョニーがかわいそうだ。餌をべ終わるまで待って、コンビニに行きがてら散歩に連れて行こう。 尻尾を振りながらドッグフードをべるジョニーを見つめ、楽しかった日々の生活を思い出す。良美と出会っ

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第十八話
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十一話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone ――遠くから聞こえてくるサイレン。頭上に感じる人の気配。体に感じるのは冷たく硬い材質。 なぜか俺は寝ているようだが、動こうとしても体が言うことを聞かず、頭と右肩が痛い。 瞼まぶたを突き破って届く光を認識してゆっくり目を開け周りを見ると、どうも俺が寝ているのは売り場の床の上らしい。心配そうな表情で俺を見下ろす人がたくさんいた。 店のパートたちも、みんな集まって俺を見ている。 「俺、なんで寝てるんだ……?」 さっきまで仕事をしてたのに、なぜ床の上に寝てるのか訳が分からず、頭をもたげて起き上がろうとしたら、パートたちが慌てた様子で俺の体を押さえつけた。 「だめだめ! 動いちゃ!」 「突然倒れたんですよ! 寝ててください!」 凄い剣幕で捲まくし立てるパートたちに気圧けおされ

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十一話
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第五話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 翌朝、目を覚ましてダイニングへ向うと、良美が作る朝の匂いが漂ってくる。 「おはよう」 「おはよう。あなた、新聞取ってきて。いま手が離せないの」 良美に言われ、門のところまで新聞を取りにいき、ダイニングに戻って読みはじめた。 ローカル誌の埼玉新聞でも一面はアメリカ大統領と総理大臣の会談、記事を斜読みして経済面を開き、地元の経済情報を見る。埼玉北西部の外れにある我が故郷の、アイス工場の操業状態に関する記事を読んでから地方面を開いた。 秩父の聞いたこともない祭りの記事や学校行事のことなど、近隣地域のローカルネタを拾いながら仕事に生かせる情報を探していく。 上毛新聞や下野新聞のように、県内で全国紙を上回る発行部数を誇る新聞ではないが、俺が埼玉新聞を読むのは地元ネタを拾って

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第五話
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 人目に触れないよう店の裏側へ回り、周囲に人がいないことを確かめてから胸のポケットにある煙草とライターを取り出し、左手に持った煙草の先に火を点ける。 ライターを胸のポケットにしまいながら煙を深く吸い込み、吐き出しながら煙草を右手に持ち替えたと同時に、ズボンの左ポケットから携帯灰皿を取り出し、しゃがみ込んだ。 ニコチンが肺から血液に流れ込み、全身の血管が収縮するような感覚。ここ何ヶ月か続いている目眩やだるさも相まって、意識が飛んでいきそうになる。 (最近、蛍が来てないなぁ……) 良美が出ていった日から、どうしたことか蛍も姿を現さない。毎日のように楽しみにしてた娘との会話もできず、精神的にも肉体的にも疲労が溜まっている。せめて蛍の顔だけでも見れれば、こんな疲れなんか吹っ飛

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第二十話
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第十九話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 公園を出て丘を降っていくと、下に灯りが見えてくる。 丘の前を通る四車線の道路に立ち並ぶ多数の外灯が、夕暮れが終わろうとしている世界を明るく照らし、道路を幻想的なまでに浮かび上がらせていた。 道路に出ても、家を出たときと同様に、ジョニーは相変わらず俺の横に付いて歩いている。外灯の灯りで金色の眼を光らせるジョニーを見ていると、いつも以上に愛おしさを感じてしまう。 時たま横を歩くジョニーの頭を撫でてやりながらコンビニに向かい、駐車場の隅にあるポールにリードを括り付けて店の中に入った。 やる気のなさそうなアルバイトが突っ立っているレジカウンターの前を通り、入り口の正面奥にある弁当の売り場へ行って生姜焼き弁当を選んでから、ついでに冷蔵ケースから缶ビールを手に取ってレジに向かう

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第十九話
  • Feel The Darkness | Gimme Gimme Shock Treatment 其の5

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 白目を剥き痙攣するヘンタイロスの頭からは、薄っすらと煙さえ立ち上っている。アヘイジは全身を痙攣させるヘンタイロスを満足そうに眺めると、寿司怒雷武のスイッチを切った。 「ポォゥッ! グゲッゴォ……」 寿司怒雷武の衝撃から解き放たれたヘンタイロスは力なく地面に倒れ込み、呼吸を荒げて咳込んでいる。 ヘンタイロスは怒りの形相でアヘイジを睨みつけ、大声で怒鳴った。 「ちょっとアンタ! ワタシを殺す気なのん!?」 ヘンタイロスを見つめるアヘイジは頭を横に振り、突然涙を流しはじめたのだ! 「寿司怒雷武、その理論は完璧じゃが、凄まじい威力に耐えられる者がいなかった。今までの弟子は皆、最初の通電で黒コゲになって死んでいった……。じゃが、あんたは見事耐え抜いたのじゃ。やはり兄ちゃん、あ

    Feel The Darkness | Gimme Gimme Shock Treatment 其の5
  • Feel The Darkness | The Wounds Are Never Healed 其の1

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 「せい!」 「どりゃあ~っ!」 寿司怒雷武で瀕死状態になりながら料理修行を開始したヘンタイロス同様、ベラマッチャも舐め犬店「ドッグファイト」で体力の限界を感じる毎日を過ごしていた。 同じ部屋に住むヒールの舐め犬、タイガー・ジェット・チンとキラー・トーア・オマタに誘われ、スモウ・レスラー出身の舐め犬同士で、毎朝、中庭に集まりスモウの稽古に励み体力作りに勤しんだのだ。 プロのスモウ・レスラーの激しい稽古に、小柄なベラマッチャは最初の頃はついていけなかったが、半年、一年と稽古するうち、彼らと互角にスパーリングできるようになっていった。 「打撃から入り、相手の重心を崩して投げ技に持ち込み、寝技で関節を極めるスタイルを確立したほうがいい」 小柄なベラマッチャのスモウを見たジャ

    Feel The Darkness | The Wounds Are Never Healed 其の1
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第十話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 昨日に続いての自分で自分に送信しているメールに驚き、メールを確認すると、やっぱりタイトルも文もない。 なぜこんなメールが着信するのか考えていると、キッチンから良美が話しかけてきた。 「健康診断の結果が届いたから、部屋の机の上に置いといたわよ」 洗い物をしている良美の声で我に返り、分かったとだけ返事をしてスマホを手に部屋へ向かった。 部屋へ戻ると机の上に封筒が置いてある。 引き出しからペーパーナイフを取り出して封筒を開け、健診結果を確認すると「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」と血糖値が上昇しており、糖尿病の疑いがあるため検査するよう書かれていた。 (まいったな……) 最近、倦怠感が強くなって欲も落ちており、背中に痛みを覚える日が多い。それに死んだ父親が糖尿

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第十話
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第十七話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone スマホを枕元に置き、目を閉じてもの思いに耽ると、俺の脳裏に良美の顔と蛍の顔が同時に浮かんでは消えていく。良美は帰ってきてくれるのか、そのことでメシも喉を通らず、憔悴する俺の姿を見た蛍はなんて言うのだろうか。 開け放った窓からは小鳥のさえずりと羽ばたく音が聞こえ、どんより曇った空の下を飛び回っている様子がうかがえる。 目を開き、天井の丸いシーリングライトに家族三人で楽しく過ごす日々を映しながら一時間ほど寝転がったままでいると、お義母さんに夫婦喧嘩のことを話して少しホッとしたためなのか、急に欲が湧いてきた。 (メシをうか……) ベッドから起き上がって一階のダイニングへ行き、冷蔵庫に入れてあった夕べのオムライスを電子レンジで温めていると、昨夜の器棚の怪異が甦ってくる

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第十七話
  • Feel The Darkness | Spoild Child Freedom

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone ずらりと並んだガキども 希望するのは自由への旅 独裁者を蹴散らすために 仲間を集めフォーメーションを整える 理不尽に押し付けられるものは力づくで排除 そのための破壊と暴行は正当な権利の行使 だけど暴力と破壊で法を倒しても俺の心には響かない あいにく俺はニヒリストなんでね 気に入らねえのさ その女の陰に隠れて金を数えてる赤い服の奴が 結局お前は操り人形 気付かず誰かに踊らされてるだけ 世界で最悪の殺人者は光を見た者たち 赤い服の連中のことさ そんなことも分からない奴に興味はないね 俺は笑って見させてもらうぜ ずらりと並んだガキども 見るのは若者たちの夢 希望ある未来を目指し 学校も行かずフォーメーションを整える 壊されていく環境を守るため 罵声と恐喝は正当な権利の行使

    Feel The Darkness | Spoild Child Freedom
  • Feel The Darkness | 夢幻の旅:第十六話

    お知らせ 第4回ツギクル小説大賞で、当サイトの作品「夢幻の旅」が奨励賞を受賞しました。 管理人:Inazuma Ramone 良美が家を出ていった事実を受け入れられず、俺は唇を歪めながら右手に持ったメモをクシャクシャに丸め、ゴミ箱めがけておもいっきり投げ捨てた。 病院にいたときから腹が鳴っており、体は事を求めているものの心が受け付けてくれない。昨夜、べずに残してある夕が冷蔵庫に入っているが、べずに自分の部屋へ行こう。メシはいたくなったらえばいい。冷蔵庫の中に入れてあれば、一日くらい置いといても大丈夫だろう。 自室へ向かい、窓を開けて枕元にスマホを置き、ベッドに寝転んだ。 良美の実家へ迎えに行こうか、それとも電話して、お義母さんと話をしようか考えるものの、どちらとも決めかねて時間だけが過ぎていく。 もうすぐ六月、気温はぐんぐん上昇し雨の日も多くなり湿度も上昇してきている。 額に汗

    Feel The Darkness | 夢幻の旅:第十六話