風も吹かない夏の日だった。朝から書籍の索引を作るため、あらゆる文献を眺めては語句を品詞ごとに分解し、それらを表の形に組み立て、また眺め、分解し、組み立て続けていた。 これらの作業を黙々と続けていると、印字の数々が自己主張を始める。 「わたしは机という字です。ツクエと読みます。私の職業は名詞です」 「わたしは美しいという言葉です。ウツクシイとは、何かを形容する言葉です。この物語では髪を修飾しています」 「わたしは」「わたしは」「わたしは」 うるさい。私自身は眉間に皺を寄せて黙って語句を切り分けているだけなのに何だかとてもうるさい。目で感じるうるささは暑さととても相性が悪く、脳みそが茹だる。奥歯に静かな電流が走る。いらいらすると歯を食いしばって耐える癖がある。ゴリ、と小さく音がしてふと気がついた。そういえばまだ今日は先生から頂いたチョコレート菓子しか食べていない。熱でどろりと溶けたチョコレート