初めて「恋」の物語を作っている。すくなくとも自分の過去作では描いてこなかった感情を、本作ではアニメーション映画の中に込めたいと思っている。企画を立ち上げる時に思い出していたのは、例えば次のようなことだ。 この世界には文字よりも前にまず───当たり前のことだけれど、話し言葉があった。文字を持たなかった時代の日本語は「大和言葉」とも呼ばれ、万葉の時代、日本人は大陸から持ち込んだ漢字を自分たちの言葉である大和言葉の発音に次々に当てはめていった。たとえば「春」は「波流」などと書いたし、「菫(すみれ)」は「須美礼」と書いたりした。現在の「春」や「菫」という文字に固定される前の、活き活きとした絵画性とも言えるような情景がその表記には宿っている。 そして、「恋」は「孤悲」と書いた。孤独に悲しい。七百年代の万葉人たち───遠い我々の祖先───が、恋という現象に何を見ていたかがよく分かる。ちなみに「恋愛」は