戦争や紛争、および災害の体験や記憶継承について聞き取りをしていると、「笑い」の場面にしばしば出くわす。語り手が暴力の不条理を皮肉っぽく冗談にしたり、緊張の中で不意に見られるコミカルな瞬間について話したりするのである。 わたしが長くフィールドワークをしている土地の一つ、英領北アイルランドは、1998年まで民族紛争を経験し、今も街のあちこちに、対立する住民集団を接触させないために軍が建てた高さ数メートルの壁がそびえる。すぐ隣に住む女性の話では、夜になると決まって壁の両側に人が集まり、石、ガラス瓶、火のついた花火などを壁の向こうの「敵地」に投げ込むので、それを毎日のようにきれいにしなくてはならない。あるとき、彼女は自分の誕生パーティーに壁の向こうの友人たちを招待する。夕方にパーティーはおひらきになるが、壁の外に出るには道をぐるりと迂回(うかい)しなくてはならない。笑って言い合ったという。「石とか