小説 ポンポン 平成17年作 ◯1○ ぼくは丸い。ふわふわとして、空間を漂っていた。その空間は風もなく重力もない。寒くも温かくもなく、そんな何処かを、ぼくは目的もなく、ただ浮かんだり流されたりしていた。 ぼくには自身の軽さや丸さがすべてで、世界というものがわからないし、興味もない。 苦しみも悲しみもない。ただ、ぼくの中心の奥深いところに、静かな気持ちがあるだけだ。 △2△ そんな丸いだけのぼくだったが、いったいどういう経緯か、気がつくと捕獲され、渋谷のショップで売られていた。 でもそれが悲しいのではない。ああそうか、と気づくまで、時間がかかったということだ。 それまで、ぼくには名前がなかった。しかし店頭に並べられたぼくたちには、「ポンポン」という商品名がつけられていた。丸くて軽いからポンポン。つまり、そういうことらしい。 ◎3◎ ぼくたちはそれまで、お互いのことをまるで知らなかった。ただ
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