こないだ、「おもちゃのチャチャチャ」は野坂昭如作詞だ、などと豆知識を披露したが、渡辺裕のサントリー学芸賞受賞作『聴衆の誕生』で、「伊東に行くならハトヤ、電話はヨイフロ」も野坂作詞だと知った。なお渡辺がサントリー学芸賞選考委員なのは、阪大文学部美学科に四年ほどいて、山崎正和先生の同僚だったからである(断っておくが私は文学部とは何の関係もなかった)。 田中貴子のサントリー学芸賞受賞作は『あやかし考』なのだが、これはいかにも、落ち穂拾いの寄せ集めで、功労賞の意味あいが強く、これを代表作のように思われては本人も迷惑だろう。ただ、私は当初、題名から、お化けものかと思って読まなかった。私は怪獣は好きだが、お化けものにはどうも興味がない。しかし実はそうではなかったのだが、中に「淀殿拾遺」というエッセイがある。「これは一人の女人についての粗いスケッチである」とエピグラフがあるが、こういうことは「粗くない」