二十二篇の短編で編まれたアンソロジー。かつて都会に生きていたすべての人々の気配を日常的に感じるようになる豊島与志雄『都会の幽気』、二晩姿を消していた少女が幻のような少年との出会いを語る野溝七生子『往来』、奇妙なことはなにも起こらないのに書き手の苛立ちと不安が都会の光景を歪ませる芥川龍之介『歯車』、ひどく現実的な幽霊たちとの駆け引きが笑いを呼ぶ牧逸馬『第七の天』、身分の階層がそのまま地下の高層建築になっているディストピアを描く佐藤春夫『のん・しゃらん記録』。月報には日影丈吉『当世風の国際性』が載っている。