価値論的思考実験とVirtural Reality 伊勢田哲治(名古屋大学情報文化学部) Virtual Reality(以下VRと略)技術の近年の進歩は哲学者の関心を引きつけ、その結果VRをあ つかった哲学的論考もいくつかすでにあらわれている(ハイム1995, 松王2000など)。しか し、哲学におけるVR的思考実験と現実のVRの違いという点を十分に意識して書かれたものはあ まり見かけない。本稿では、特に、価値論の観点から、哲学的思考実験とVRの関わりについて 考察する。 本稿はかならずしもVR論ではなく、VRを通して哲学における思考実験について考える、という 趣旨の論文である。とはいえ、本稿の議論をきっかけにしてVRについて考察を深めることは可 能であろうし、そのあたりの読み方は読者にまかせることとする。 1 Virtual Realityとは何か 1−1工学的観点からのVRの概要