10世紀以後のイスラーム世界で砂糖がさかんに製造され、十字軍の騎士たちの手によってヨーロッパにもたらされたことはよく知られている。しかしイスラーム教徒(ムスリム)がどのような技術を用いて砂糖をつくり、それをどのように消費していたのか、さらに商人たちが商品としての砂糖をどのように扱っていたのかとなると、あまりよく分からないのが実情であろう。このシリーズでは、アラビア語やペルシア語の史料にもとづいて、このような問題を具体的に考えてみることにしたい。第1回目は、さとうきびの液汁から砂糖の結晶をつくり出す円錐形の陶器ウブルージュについてである。 アラビア語で砂糖を、スッカル(sukkar)という。英語シュガーのもとになった言葉である。さとうきびを原料とする砂糖生産は、紀元後1世紀頃の北インドにはじまり、その後、東方では唐代にインドの製糖法が中国南東部に導入された。つづく宋・明の時代に本格的な製糖業