休日の新宿駅。 雑踏の中からスニーカー、リュックサック姿の青年が現れる。史上5人目の中学生棋士、破竹の勢いの29連勝で世間を驚かせた"テレビの中の人"だ。 しかし意外なことに誰もその存在に気付くことはない。スマホに視線を落とし、それぞれの目的地に急ぎ足で歩みを進めていく。世間とのギャップに、思わず吹き出しそうになる。 「天才」「神の子」―。藤井の名前は、常に華々しい形容詞で飾られる。 目の前に座る青年は、自らをどう客観視しているのだろう。 自分より年上の棋士たちを才能型、努力型、どのように分けるのだろう。 少々意地悪な問いだったかもしれない。"質問"という細い綱を決して踏み外すことのないよう、伏し目がちに考慮する。手元の紙おしぼりを所在なさげに弄ぶ。画面越しに何度も見てきた対局中の姿に重なる。 しかし、丁寧に導き出したその回答の言葉選びから、深い将棋への愛と、同じ道を歩む棋士への尊敬の気持