ブックマーク / www.mishimaga.com (35)

  • 第18回 闘志について語るときに羽生の語ること|いささか私的すぎる取材後記|みんなのミシマガジン

    王者の首に刃を突きつける奇襲だった。 将棋会館東京将棋記者会室のモニターが映し出す特別対局室の盤上には、見たこともない陣形が広がっている。隣にいた観戦記者は「なんだこれ」と驚いた後で「これは昼までに終わりますね」と言った。まだ11時前だ。対局開始から1時間も経っていない。 若手の登竜門である第44期新人王戦を制した都成竜馬三段が臨んだ記念対局。相手は羽生善治三冠だった。いわゆるエキシビジョンマッチである。非公式戦で、正式な記録としては残らない一局だが、少なくとも都成にとっては真剣勝負だったはずだ。羽生の胸を借り、自らの腕を試すことができるのだから。仮に白星を挙げれば、何より雄弁に実力を示す看板になり、己の背中を押す自信にもなる。天才たちが四段(プロ)昇段への切符をめぐって弱肉強の死闘を繰り広げる三段リーグに持ち込む、最良の財産となるのだ。 独創的な指し回しはプロ間でも高い評価を受け、奨

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    zu2 2014/01/13
  • 第20回 羽生について語るときに渡辺の語ること|いささか私的すぎる取材後記|みんなのミシマガジン

    マンチェスター・ユナイテッドのエンブレムが左胸に入ったウィンドブレーカーを羽織って、渡辺明は改札口に現れた。欧州サッカーフリークの彼らしいな、と思った。狙い澄ましたように待ち合わせ時間の3分前だった。 「お待たせしました。すいません」 黒地に赤のパイピングという洒落たカラーリングは、当たり前だが、対局室の彼からは遠く、新鮮に映った。 年の瀬の12月28日。駅前の小さな商店街は正月休みに入った店もあり、静かだった。 クリスマスはご家族でお祝いを? などと歩きながら尋ねると「いや、自分はイブに対局があったので、終わった後に棋士何人かと観戦記者の方と飲みに行きました。男だけで」と笑った。 古い喫茶店に招き入れられた。「ここ前に取材で使ったことがあるんで、いいかなと」。 おそらく開店から40年は経っているであろう店内は、床から天井まで全て木で造られ、宿命的なコーヒー色に染まっている。初老の女主

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    zu2 2014/01/13
  • 第10回 カンバンが読めません/ルーン文字|究極の文字をめざして|みんなのミシマガジン

    文字の連載なのに、いきなりゲームの話をします。 小学生のころの夢が「ゲームの中に入ってお姫様を助けたい」というほどのゲーム好き(二次元好き?)だった私は、以後30年近くにわたり、天文学的な時間をゲームに費やしてきました。 その時間を別のことに当てていれば、たぶんオリンピックにも出れたと思います。 さすがに最近はゲームをすることも減っていますが、たまに最新のゲームをしていると、「なんて親切なんだろう」と思います。 マニュアルを見なくても、ゲームの中で懇切丁寧に操作法を教えてくれる。 ちょっとミスをしてもすぐリカバリーできる。 ストレスがないよう、サクサク進むようゲームバランスが調整されている。 まさに至れり尽くせり。お前は星野リゾートか。 昔のゲームはとにかくシビアでした。開始5秒でゲームオーバーになったり、マニュアルがないと最初の一歩すら踏み出せなかったりなんて日常茶飯事。 な

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    zu2 2014/01/04
  • 第19回 体育嫌いだった人たちへ|近くて遠いこの身体|みんなのミシマガジン

    身体を動かすことが嫌いな人はおそらく世の中にはいない。 わかっている。こういう言い方をすればすぐさま反論が返ってくることなど容易に予測できる。こんなのは運動を得意とする人間の単なる思い込みに過ぎない。そう声を荒げたくなる人や、ほとんど見向きもしない人もいるだろう。そんなことはわかっている。しかし、それがわかっていながらも敢えて断言するのにはそれなりの理由があってのことだ。今日はそれについてちょっと書いてみたい。 身体を動かすことが「生まれながら」に嫌いな人は僕はいないと思っている。 この世に生まれ落ちた瞬間の赤ん坊はひとりでは生きられないほどに未熟である。事や排泄その他すべてのことを、母親をはじめ近くにいる大人たちにしてもらわなければ命を長らえることはできない。温かな愛情に包まれながら育てられるうちに私たちは徐々にできることが増え、大人へと成長してゆく。 生を受けてしばらくは「不快を

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    zu2 2013/12/15
  • 第21回 小学校を構成するピース(断片)後編|隣町探偵団|みんなのミシマガジン

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    zu2 2013/08/18
  • 第6回 「会社員はリーダーにならないとダメなの?」|仕事で少し傷ついた夜に|みんなのミシマガジン

    フリーマガジン『R25』の編集者として、20代・30代男性会社員へのインタビューを積極的に行っていたのが2003年~2007年。いわゆる「リーマンショック前」で、ITバブル崩壊から日の景気が持ち直し始めた頃になります。当時、インタビューでよく聞いていた質問が「出世したいですか?」と「結婚して子供を育てたいですか?」の2つ。どちらの質問に対しても、だいたい次のような反応が返ってきたものです。 「いやー、そりゃしたいですよ。でもね、今の自分じゃ、責任背負いきれませんから。。。 まだ早いっす」 当時の20代・30代男性会社員の胸のうちを僕なりに解説すると、 ・右肩上がりで給与があがる、という前提はもはや過去のものだとわかっている ・"社会も会社も、自分を守ってはくれない"といった危機意識や被害者意識が強い ・自分が育った生活環境と同じレベルのものを、自分の子どもに提供できるかどうか自信

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    zu2 2013/07/13
  • 第2回 「仕事は効率よく、コストは最小に」とタダめしの関係。|タイトル、まだ決まってません。|みんなのミシマガジン

    世の仕事おもしろいもので、飲業でも限りなく水商売に近い仕事がある。 コンビニで買えば217円のアサヒ・スーパードライを5千円で売るような水商売的な飲店は、あるところにはある。 もうひとつ水商売の質にあるのは、「客が喜ぶのをわたしの楽しみの第一とする」という精神だ。クラブやスナック、バーや居酒屋といった酒場、料亭・割烹、伊仏レストラン、うどん屋ラーメン屋といった業態を問わず、そういう「客の笑顔を見たいため」に生まれてきたような「水商売体質」をもっている人もいて、わたしはそういう店が好きだ。 マクドナルドのスマイル0円はマニュアルであり、万人にスマイルを振りまいて「ついでにポテトはいかがですか」などとほほえむが、これは飲業であって水商売ではない。 真の水商売人は「やりたいことを水商売としてやっている」のだ。 やりたいことや好きなことは、カネがかかるものだ。 そして「身銭を切

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    zu2 2013/07/10
  • 第2回 2つの勘違い|なめらかな会社が好き。|みんなのミシマガジン

    まず何が苦手かって、組織が苦手です。組織と言いますか、おかしな上下関係が嫌いです。意味もなく上な人とか、意味もなく形式的なルールとかが。そんな人間が組織を作っているのですから、皮肉なものです。 中学校に入るといろんなクラブがあります。なんのクラブに入ろうか、と説明を聞いていると、「テニス部に入ると一年生の間は基的にボール拾いだよ」と言われて、えっ!?と思いました。どうして全員がテニスできるだけコートを作らないの?と考えてしまう人間です。 結局僕は陸上部で長距離を走っていました。よーいドン、したら、先輩も後輩もないですからね。速ければ先輩を追い越せば良いし、遅ければ抜かれていきます。そんだけです。フラットでした。 高校は山に登るワンダーフォーゲル部に入り、大学はサイクリング部でした。サイクリング部は体育会でしたが、いわゆる体育会的な上下関係はなく、敬語の使えない新入生が入ってきても、2年生

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    zu2 2013/06/11
  • 第68回 コンピューターと棋士|実録! ブンヤ日誌|平日開店ミシマガジン

    たいして関心もないはずなのに、心の奥に妙な何かを訴えるニュースだったと記憶している。1997年、チェスの世界王者ガルリ・カスパロフ(ロシア)がIBMのスーパーコンピューター「ディープブルー」に1勝2敗3分で敗れた。以来、我々には大きな命題が残された。「人は機械に劣るのか」と。 時は流れて現代。コンピューターの進化の猛威にさらされているのは将棋である。2010年、女流棋界の頂点に四半世紀にわたって君臨してきた清水市代女流王将(当時)が「あから2010」に敗れ、昨年は引退棋士の米長邦雄永世棋聖が「ボンクラーズ」の前に屈している。いずれも「現役の男性棋士ならば」という逃げ口上を用意することは可能だったが、3月23日から5週にわたって開催される「第2回電王戦」5番勝負では、各世代を代表する5人の棋士がコンピューターソフトの挑戦を受ける。もう言い訳の通用しないところまで来ているのだ。 先日の直前会見

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    zu2 2013/03/18
  • 第56回 夢、遠くても|実録! ブンヤ日誌|平日開店ミシマガジン

    あなたに夢があるとして、神様に言われたとする。 「君の夢は極限まで努力しても叶うまで10年はかかる。むしろ叶わない可能性の方が高い。失敗した場合の補償は何もない。やり直しの機会もない」と。あなたは、なお勇敢に夢へと挑み続けることができるだろうか。 暑すぎる午後が過ぎ、将棋会館の窓に夕闇が迫ると、3階ロビーは奇妙な沈黙に包まれていた。1フロア上の4階では、運命を賭けた大勝負が最終局面を迎えている。棋士養成機関「奨励会」の三段リーグ最終日に、決着の時が訪れようとしていたのだ。現場にいる各社の記者も、テレビクルーも、先輩棋士も、誰もが勝負の重さを知っていた。夢を叶える者と、夢に破れる者が生まれようとしていることを。 公益社団法人日将棋連盟・新進棋士奨励会。通称「奨励会」とは、棋士(四段)を目指す若者が弱肉強の生存競争を行う場だ。全国各地で「神童」とまで称されたような少年たちが競い合い、強

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    zu2 2012/10/21
  • 第35回 青春を奨励会に賭けて|実録! ブンヤ日誌|平日開店ミシマガジン

    千駄ヶ谷の瀟洒なカフェで、僕はひとりの女子高生と向かい合っていた。法に触れる関係・・・ではない。れっきとした取材行為だ。ショートカットの似合う彼女の名前は加藤桃子ちゃん。16歳。会話はこんな感じ。 「えっ、何でもべて良いんですか。じゃ私、ハンバーグ~」「昔から白米が好きだったんですけど、今はゴルゴンゾーラパスタが大好きなんです」「音楽はですね、(元ジュディマリの)YUKIかな~。意外と竹内まりやも好きです」「最近、洋服を買うのが好きになってきたんですよ。前はあんまり興味なかったんですけど」「前は嵐の櫻井くんが好きだったんですけど、愛は完全に冷めました。今は韓流ドラマにハマッてて、ソ・ドヨンがカッコイイなって思います。知ってますか? 春のワルツ。冬のソナタと同じシリーズで女同士の戦いが・・・」。 話す表情も何もかも、どこにでもいる女の子のようだけど、実は普通とはちょっと違う人生を生きている

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    zu2 2012/10/21
  • 第6回 羽生善治流カレーライスの食べ方|実録! ブンヤ日誌|平日開店ミシマガジン

    4月から担当に将棋が加わりました。これで現在、政治・社会・事件・人物・書評・街ネタ・将棋etc・・・を担当していることになります。逆説を説けば、担当などない、ということですね。ちなみに囲碁担当なるものは存在しません。 将棋と言えばハブさん。羽生善治名人(厳密に言うと、現在は名人・王座・棋聖のタイトル3冠を保持)です。誰もが知っている唯一の棋士でしょう。 16日、東京は千駄ヶ谷の将棋会館で昨年度の将棋大賞表彰式がありました。羽生名人は3年連続17回目(!)の最優秀棋士賞を受賞です。式が終わった後、スキを見て名刺を渡し、挨拶しました。 「はぶ先生、ホーチの北野といいます。新しく記者会に入りました」 「あ、どーもー。それはそれは。よろしくどーもお願いします」 スッとフトコロから名刺を出し、頭を下げる名人。1秒の沈黙の後、恐れていた問い掛けがやってきました。 「ちなみに将棋の方は・・・やられる

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    zu2 2012/10/21
  • 第52回 若い棋士の肖像|実録! ブンヤ日誌|平日開店ミシマガジン

    至高の頭脳が集う将棋界を取材している時、常に頭の片隅に、意識の底に眠る言葉がある。実に単純で、しかし重要な2文字。「天才」である。天才と呼ばれる男たちは、なぜ天才と成り得たのだろうか。 そんな思いが、ふとした時に顔を出してくる。文字通り、天が与えた才能なのか、導かれた運命なのか、偶然と運による産物なのか、それとも――。 羽生善治が史上初の七冠完全制覇を成し遂げた1996年、不世出の天才を輩出した道場「八王子将棋クラブ」には連日、将来の名人を夢見る子どもたちが殺到した。慣れない手つきで駒を持ち、盤へと向かう幼い顔のなかに、中村太地という名の7歳の少年がいた。 「僕、負けず嫌いだったんです。ルールくらいしかわからない時に5歳上のいとこに負けて、悔し泣きして。強くなろうと」 テレビに映る羽生の対局姿に憧れ、知れば知るほどわからなくなる盤上の世界に魅了された中村は、サッカーを辞めて将棋に没頭した

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    zu2 2012/10/21
  • 第58回 千日手の長い夜|実録! ブンヤ日誌|平日開店ミシマガジン

    夜に響く駒音だった。時計の針は10時に近付いている。 銀将を手に取った羽生善治の右手の指先がゆらりと宙を舞い「6六」(※1)に打ち下ろされた瞬間、控室(※2)の空気はエアポケットに入ったように行き場を失った。 「え?」「あれ?」「何これ?」 モニターを通して局面の検討を行っていた棋士たちがどよめく。私には何が起きたのか理解出来なかった。とんでもない悪手を指してしまったのだろうか、と思った瞬間に、今度は「あっ」「なるほど」と「6六銀」後の展開を読み切ったのであろう声が上がった。私の目の前にいた行方尚史八段(※3)は小さな声で「マジックだ・・・」とつぶやいた。 午前9時の開始から既に13時間が経過しようとしている。疲労困憊の控室とは裏腹に、対局室の空気は凜として張り詰めたままだ。彼にしか起こし得ない魔術を繰り出して危機を脱した羽生は、苦悩する鬼のような顔で思考を続けている。土壇場に仕掛け

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    zu2 2012/10/21
  • 第39回 神様への恋|実録! ブンヤ日誌|平日開店ミシマガジン

    「インタビューは恋愛に似ている」。7年前、雑誌「SWITCH」「coyote」元編集長で、僕の大学時代からの師匠である新井敏記さんに言われたことがある。「好きな人のことはたくさん知りたいし、一緒の時間を過ごしたい。そして手紙を送るように文章を届けたい」。どんだけロマンチストなんすか、と言いたくもなる言葉ではあるが、実は10年間、記者を続けてきたなかで得た実感でもある。 ある作家の言葉を拝借して、ちょっと言い換えるなら「余儀のない取材ではなく、夢を見た取材は恋愛に似ている」のだ。やっぱり、興味を持った人には会ってみたいし、話をしてみたいし、仲良くなりたい。ノーマルな趣味趣向を持った健康な男子であると自負しているが、取材となれば相手が男であろうが女であろうが関係ない。時には排他的な独占欲にも陥る。惚れ込んだ対象に担当記者が20人いれば、己が1位でなくては気が済まないものだ。クラスナンバーワンの

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    zu2 2012/01/24