Les Mochicans de Paris, Salvator 『パリのモヒカン族』『サルヴァトール』 本書を前に真っ先に感じるのは、何よりもその長大さです。便宜的に『パリのモヒカン族』『サルヴァトール』の二部に別れていますが、本当に単なる便宜的なものであり、キリが良くも何ともないところで真っ二つに分けられているだけなので、実質的に一つの作品と見なしてよいでしょう。全307章。単純に章の数だけで比較すると、邦訳のあるものでは『王妃の首飾り』『モンテ・クリスト伯』の3倍前後に当たります。『ブラジュロンヌ子爵』でさえ268章なので、とんでもない長さだということがわかります。 さて本書の特徴は長さだけではありません。日本では主に二つの点で、一部では有名でした。 一つには、フランス最初期の密室ミステリとして。鍵の掛かった寄宿舎の部屋から生徒が誘拐された謎を、パリ警視庁長官ジャッカル氏と取次業者サ