この一年インドを拠点にチベット問題について取材をしてきたが、その間私はダライ・ラマ法王が繰り返し発信するメッセージの一つに共感を覚えた。それはお決まりの平和や非暴力、思いやりの心についてのメッセージではない。ダライ・ラマ法王が畳み掛けるように言う「私たちは中国人の敵ではない。私たちは中国の人々を信頼している」という言葉だ。 ダライ・ラマ法王がインドに亡命し、チベットが中国支配下におかれて50周年を迎えた今年三月、ダライ・ラマ法王は同様のメッセージを人々に伝えた。法王は訪れる世界各地でほとんどマントラのように同じメッセージを繰り返し、中国人に接触するために必死ともいえる努力をしてきた。 中国人の心をとらえようというダライ・ラマ法王の試みは残念ながら容易には達成されないかもしれない。道理は愛国主義という炎にいとも容易く消されてしまうからからだ。中国政府の政策への反発を「反中国」と混同してしまっ