医師は足りているのか,不足しているのか。1990年代の終わりから2000年代の初めにかけ,患者権利や医療安全に対する社会の関心の高まりから,日本の医療の姿は大きく変わり始めた。相次ぐ医療事故により報道が過熱。医師―患者関係が変貌し,医療不信から医師の業務も逼迫していく。2003年以降,「医師不足」の報道が相次ぎ,医師の地方病院離れから「医療崩壊」と言われる状況に至った。2008年,政府は四半世紀ぶりに医学部の定員増を決め,毎年の医師養成数は現在,9400人を超えている(図1)。それでも,今なお地方を中心に医師の増員を求める声が聞かれるが,増員による過剰が将来問題を招くことはないのか。 医師の需給をめぐるこれまでの議論を『医師の不足と過剰』(東京大学出版会)にまとめた桐野髙明氏と,同書のあとがきで紹介された『ちょっと気になる医療と介護 増補版』(勁草書房)の著書があり,厚労省検討会で医師の偏