▪️ハルさんのこと この世の支配者は「時」であって、(きみが)王であれ奴隷であれ、時がきみの命を吹き消すとき、あらゆる苦しみと喜びは夢のように、あるいは水のように消えてゆく。だから、王であれ奴隷であれ、良い思い出を遺す人こそ幸福なのだ。-フェルドゥーシィー 寝たっきりで眼の不自由なハルさんが僕が働くホーム(特養)にきたのは一年前。 一日の始まりは朝の挨拶。ハルさんおはよう、気分はどう? いいよ、上々。どうしてそういつも言い切るのか。この前もちょっとしたことで大腿部の骨折をしたというのに、なぜそう言えるのか。 カーテンを開けると青空。朝日が注ぐ。天気が良くてねと言うと、有難いとハルさんは答える。その言葉に空の青さが深まる。 日々の眺め、経験や記憶も其のなかにある。記憶はつくられ続けるものだから、僕らの一人一人にとって歴史は風景そのものというのなら、それを作り上げたのも僕らにほかならない。 ハ