「アクト・オブ・キリング」論をパンフに書きました。 「悪の凡庸さ」と「アクト・オブ・キリング」町山智浩 「わしはシドニー・ポワチエに似とるだろ?」 『アクト・オブ・キリング』の主役アンワル・コンゴ氏は笑う。シドニー・ポワチエは、アンワル氏が20代だった1960年代前半、黒人で初めて主演男優賞を受賞した映画スターだった。アメリカ南部では黒人に選挙権も与えず、人種隔離法で学校もバスもレストランもトイレも白人用と黒人用に分けられていた時代に、ポワチエは『手錠のままの脱獄』(58年)などで決して差別に屈しない尊厳に満ちた黒人青年を演じた。映画のチケットを売るダフ屋だった若きアンワル氏はそれを観たはずだ。 アンワル氏の温厚そうな顔立ちは、ネルソン・マンデラ氏にも似ている。南アフリカ共和国の人種隔離政策と戦い、平等を勝ち取った偉人だ。しかし、アンワル氏は1965年のインドネシアで千人近くを殺した虐殺者