ひところマーガレット・ミラーを紹介する場合、必ずといっていいほど「夫のロス・マクドナルドの名声に隠れてはいるが」という前置きがついたものですが、いまやそのロス・マクの作品ですら数冊を除いて品切れ状態、マーガレット・ミラーにいたってはすべて品切れという嘆かわしい状況であります。「戦後華々しく登場した推理作家の中でも、読者を欺く技巧において、彼女と並ぶものはない」とジュリアン・シモンズにいわせしめたこの閨秀作家を埋もれさせるのはあまりにもったいない! というわけで今回のありがたいチャンスをいかすべく、マーガレット・ミラーを精一杯布教させていただこうと思います。 『鉄の門』『狙った獣』といったニューロチック・スリラーが話題を呼んだせいか、なんとなく日本ではマーガレット・ミラーというと「暗い」「異常」「後味が悪い」イメージがつきまとっているのですが、それだけで片付けられる作家ではありません。ミラー