■「楽譜に書けない」芸術の本質へ 「楽譜どおり弾け!」という罵声(ばせい)が強烈な人気まんが『のだめカンタービレ』は、音楽大学を舞台にしたスポ根ふう青春コメディだが、テーマそのものは新しいようで古い。名ピアニスト青柳いづみこの最新刊をひもとけば、モーツァルトからドビュッシーへ至るクラシックの楽聖たち自身が、さまざまな青春コメディを体現しつつ、ムージルからランボーに及ぶ文学の巨匠たちと直接的ないし間接的に共振し、芸術の本質へと立ち至る歩みが、テレビドラマ顔負けの解像度で描き出されていくのがわかるだろう。 冒頭のモーツァルトの章からして、シェーファーの『アマデウス』やカポーティの「カメレオンのための音楽」のみならずマッカラーズから筒井康隆、宮本輝らの諸作品におけるモーツァルト観を自由自在に織り交ぜる。作曲家シューマンと文学者ホフマンが逆方向より音楽と文学を横断していたこと、ワーグナーがボードレ