数日後、嶋野は通勤時間帯の満員電車に乗り込んでいた。先日、『鳳凰教』本部から脱出した後に手に入れた真新しいジャケットを着て、その下には百円ショップで調達したワイシャツとネクタイを着けていた。下半身も、前職時代に購入して以来余り履いていなかったスラックスで固めている。頭にはソフト帽を被り、顔を不織布マスクで覆っていた。 『東急大井町線をご利用頂きまして、ありがとうございます。次は、二子玉川、二子玉川です。お出口は左側です』 車内アナウンスが聞こえると、すし詰め状態の乗客達が一斉に蠢いた。嶋野も合わせて身体を出口に向ける。 耳障りな金属音を立てて列車が停まり、一拍置いて降車側の扉が開いた。途端に、狭い車内に凝縮されていた乗客達が一気にホームへ吐き出された。その波に逆らわずに、嶋野もホームへ降りて改札口へと歩を進めた。行列が出来ているエスカレーターを横目に、中央の階段を早足で降りると、徐々に外の
![鳳凰落とし #28|松田悠士郎](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/f67b8b04970e14d925dce1dd2b625b48a8d963c2/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fassets.st-note.com%2Fproduction%2Fuploads%2Fimages%2F115199114%2Frectangle_large_type_2_21019a9cc0bb09ae6cb1d449651a6c0c.jpeg%3Ffit%3Dbounds%26quality%3D85%26width%3D1280)