ワタシは今、崖がけっぷちに立たされている。 目の前には、裏側をこちらに向けた二枚のトランプカードが掲げられ、その奥には狡猾こうかつそうな笑みを浮かべながら、やや下瞼まぶたの上がった目でワタシを見つめる若い女の顔がある。そこから視覚を下へパンすれば、ラメが散りばめられたドレスに包まれた、目の覚める様な巨乳がテーブルに鎮座ちんざしている。その胸の前には五十枚のトランプカードが山と積まれていた。五十足す二で五十二。トランプの枚数としては一応合ってはいる。だが、この場にはもう一枚カードが存在する。それこそ、今ワタシの左手の中にあるハートのエースだ。 『ババ抜き』 そう、今ワタシはこのトランプを使った極めて古典的なゲームに興きょうじているのだ。いや、興じている等と言う状況ではない。ワタシは今、ワタシ自身の歴史的快挙を成し遂げられるか否かの瀬戸際に立っているのだ。何故なら―― 「ねぇ〜早くしてよ〜もう
![「その男、ジョーカー」EPISODE 1『卒業』#1|松田悠士郎](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/4b01d005d5672fc24a015fdefdf79a14fddad6ac/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fassets.st-note.com%2Fproduction%2Fuploads%2Fimages%2F134937792%2Frectangle_large_type_2_0845267846b6438c451a65a2374485b3.jpeg%3Ffit%3Dbounds%26quality%3D85%26width%3D1280)