ハウスでミカンが実り始めた。盲目の山川さんが、日が良く当たるよう、枝を1本1本ひもでつり上げていく=三重県南伊勢町内瀬 熊野灘を望む三重県南伊勢町内瀬(ないぜ)のビニールハウスで、山川興一さん(68)は60本のミカンの木を育てている。栽培にかかわって50年。「枝が暴れる木」「素直で実がよくなる木」。癖をすべて頭に入れ、剪定(せんてい)具合を変える。だが、「生きがいですよ」と細めた目は、19年前から光を感じていない。 約750平方メートルの敷地いっぱいに、奥行き25メートル、幅30メートルのビニールハウスが立つ。 入り口に置かれた手提げラジオが、大音量でニュースを伝える。「これ、私の方向指示器。音の方向で自分の位置が分かるでしょ」 地面を走る暖房用の送風パイプを足でたどり、枝が重なり合うすき間をすり抜ける。枝で目を突かないよう、眼鏡は欠かせない。 敷き詰めた稲わらから出てくる雑草だ