共同体があるところ境界が発生する。共同体は内と外を区別することによって成立するからだ。その共同体の周縁には内なる世界と外の世界とをわける中間地帯となる領域が広がる。いくつもの点となる領域が集合することでその境界はやがて線へと変化する。線はかつて中間地帯としてかなりボリュームがある領域があったが、やがてその領域は消失してただ一本の線として地図上に描かれることになっていった。 この本は民俗学者赤坂憲雄の一九八〇年代後半の境界に関する論文をまとめたものだ。彼は当初異人や境界についての考察からそのキャリアを始めたという。それは彼が書いているように一九八〇年代当時が『境界が溶けてゆく時代』として強く認識されていたからだろう。一九七〇年代後半に始まるあらゆる面での世界の一体化・流動化は境界の喪失、均質化する世界という認識を覚えさせるに足りるものだったのだろう。それゆえにかつて存在したと想像される境界の