写真という西洋のアクシデント――新しい写真史の構築に向けて 橋本 一径/早稲田大学文学学術院准教授 写真を初めて見る人に、それはどのようなものに見えただろうか 写真は私たちの日常にあまりにも深く浸透しすぎていて、それがなかった時代を想像することすら難しい。家族や友人の姿が写真に写し出されるのを生まれて初めて目にした19世紀の人々の驚きは、いかほどのものだったであろうか。 幸いにもその様子を垣間見せてくれる史料が、私たちのもとには残されている。19世紀後半のベルギーで労働者としてつつましく暮らしていたガスパール・マルネット(Gaspard Marnette)の残した手記である。 20歳になってから1903年に亡くなるまでの日常が記載された、2000ページ以上に及ぶこの手記の中には、マルネットが両親のポートレートを写真館で初めて撮影してもらった際の顛末も記されている。年老いた両親の姿を写真に残