とり・みき マンガ家 熊本県出身。ギャグマンガをメインにしながら、エッセイコミックやストーリー物も手がける。94年『DAI-HONYA』98年『SF大将』で星雲賞、95年『遠くへいきたい』で文春漫画賞を受賞。 この著者の記事を見る

最初に謝っておくけれども、私は『アンパンマン』の、いい読者や視聴者とはいいがたかった。 これは単純にこちらの年齢の問題で、作品の出来とは関係がない。 もちろん、吹替の原稿を書いたりする手前、声優陣のお仕事はチェックしていたが、こちらの守備範囲はもっぱら外国映画なので、分際を超えて語るようなことは、ほとんどなかった。 一見シンプルに見えるキャラクター設定やストーリーだが、あの作品に込められた哲学的ともいえる寓意については、作者自身の言葉も含め多くの人が言及しており、また作者の死を機にこれからWEB上にもいくつもUPされるであろうから、ここでは触れない。語るにふさわしい方々が他にたくさんおられるだろう。 私は私のごくごく個人的な、子供のころからの「やなせたかしのイメージの変遷」というようなことについて書いておきたいと思う。 やなせたかしのキャリアは古く、作詞家やイラストレーターなど多方面での活
私は、書き出しの一行目にはこだわらない。 凝った書き出しは、失敗した場合のリスクが大きいし、仮にうまく滑り出せたのだとしても、技巧を凝らした一行目から出発する文章を「あざとい」と感じる読者は、それはそれで少なくないと思っているからだ。 もっとも、「こだわらない」とは言いつつも、時に、小細工を弄する欲望に抵抗できないわけなのだが、少なくとも、読み手としての私は、あからさまな作為を好まない。この点は一貫している。 であるからして、 【「助けなきゃ」女性は踏切へ 父「やめろ」 JR横浜線】 という見出しには、一瞬、マウスを持つ手が止まった。 「なんだこれは?」 この見出しは、私の世代の者が考える「ヘッドライン」のスタンダードからかなり大幅に逸脱している。 なんだかうさんくさい。 新聞の見出しは、ニュースの内容を最低限の文字数で伝えるためのインデックスだ。 それゆえ、なによりわかりやすく書かれてい
クリストファー・ロイド氏(Christopher Lloyd) 1968年英国生まれ。英ケンブリッジ大学で中世史を学んで91年に学位を取得、その後サンデータイムス紙の記者となる。新聞では科学と工学を担当し、94年には「今年の科学ジャーナリスト」として表彰される。96年、英タイムズ紙、サンデータイムス紙などの発行元であるニューズ・インターナショナルのマネジメントに転じ、同年サンデータイムス紙の初のウェブ版を立ち上げた。その後ベンチャーのインターネットメディアビジネスなどに携わった後2000年、オックスフォードにある教育ソフトウエア出版社に経営者として転職、売上をほぼゼロから300万ポンドにまで成長させる。2006年に退社、妻と自宅で教育していた2人の子供と共に欧州中を旅しながら『What on earth happened?』の執筆を思いつき、2008年に発売。2010年、出版社What o
押井:だったら「ロンゲスト・ヤード」で。これもやっぱりアルドリッチの典型的な映画のひとつです。 主人公、バート・レイノルズ演じるポールは、昔はアメフトのプロ選手だったんだけど、八百長で追放された過去があって、今は金持ちの女のヒモになってるんです。どういういきさつで八百長をしたのかは明らかにされないんだけど。 あるときその金持ち女と喧嘩して、手切れ金代わりにもらったスポーツカーをかっ飛ばして、パトカーとチェイスやって、結局捕まって刑務所に放り込まれるんだよ。そこまでが冒頭10分ぐらい。で、刑務所に入るところからが本編。 展開が早いですね。 押井:刑務所に入るときにトレードマークだった口ヒゲを剃られちゃうんだけど、そしたら急に若返るんだよね。それまで口ヒゲを生やして、アル中で酒浸りでしょうもない奴だったのが、口ヒゲを剃って髪も短くすると精悍な顔になるんだよ。刑務所に入ることで往年の名選手だった
これまで何度か見送られてきた、インターネットを利用した選挙運動の解禁が、この4月19日にも参議院本会議で可決・成立する見通しになった。 ……と、真面目なほうの日経では伝えている(日経ビジネスオンラインがけっして不真面目なわけではないが、このコラムは誓って不真面目です)。 成立すれば夏の参議院選挙から施行、これによって候補者のオフィシャルサイトのほか、ツイッターやフェイスブック等のSNS=ソーシャル・ネットワーキング・サービスによる選挙運動も可能となるらしい。 もちろん、私のコラムであるから、そんな政治面の話は単なる書き出しのきっかけにすぎない。知ったときは「ああ、街頭だけでなくネットもやかましくなりそうだ」くらいの感想だった。 私はツイッターに加えフェイスブックもいちおうやってはいる。 やってはいるけれども、正直な感想を言わせてもらえば、ツイッターに比べれば、あんまし好きではない。 ではな
戦争は人類最大の狂気だ、とよく言われる。一体、その場合の狂気とは何だろうか。まさか戦争突入のきっかけを作った軍人や政治家が揃って精神病だったわけでもあるまい。 俗耳に入り易い言葉は物事の本質を覆い隠す。「戦争=あってはならないこと」だから、考えなくていい、という思考が導かれるだけだ。そうではなくて、「ありえること」として、狂気の中身をちゃんと見ておくべきではないか。そんな問題意識から、戦争を引き起こし、遂行する狂気の解明を目指したのが本書、著者いうところの〈戦争に至る精神病理学〉である。 著者は日本における精神科緊急医療の第一人者。自殺や自傷の恐れがある、他人への暴力行為が止まないといった、寸刻を争う処置が必要な重度の精神病者専門の精神科医だ。父親が旧軍人、戦後は陸上自衛隊の幹部だったことで、軍事と現代史に興味を持ち、門外漢という立場でありながら本書を書き上げた。 「戦争を引き起こす脳」は
レスリングが2020年に開催されるオリンピック(開催地未定)の「中核競技」から外された件について、私が思うところは、報道の中で既に紹介されたコメントの中にほぼ言い尽くされている。 特に、前段については、テレビのニュースショーに出てきた幾人かのコメンテーターの発言が全面的に代弁してくれている。私から付け加えるべき言葉はひとつも無い。 ここで言う「前段」とは、「レスリングの除外」という第一報を受けて抱いた最初の感慨、および、かかる事態を招いた原因についての当面の分析といったあたりまでの話を意味している。 つまり私は、レスリングが五輪競技から排除されようとしている現況について、「驚愕」し、「落胆」し、「動揺」しており、このような事態を迎えるに至った原因については、競技団体およびJOC(日本オリンピック評議会)の怠慢にその責を求めるべきだと考えている、ということだ。 伝えられているところでは、五輪
環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加に関係して、日本の医療保険制度が重要問題の1つとなっている。日本医師会はTPP交渉参加に反対であり、その中心的懸念は混合診療の問題である。TPPと混合診療との関連性について考える前に、日本の医療制度の現状と世界の医療制度との比較、特にアメリカと比べてどうなっているのかを、極めて大雑把に眺めて見たい。 国際比較から見た日本の医療制度 2005年のデータでは、日本人の平均寿命は82.3年で、これは世界一であった。日本の後には、香港、アイスランド、スイス、オーストラリアと続く。現在では少々変化しているようであるが、大局的には変わりはない。それでは世界一の長寿を達成するために、日本は医療費にどのくらいお金をつぎ込んでいるのだろうか。 図1において、OECDの先進国30ヵ国中、日本のGDPに対する医療費支出は21番目であり、決して高いほうではない。つまり日本は医
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