産休・育休を経験して、これから女性社員のロールモデル(お手本)にと期待されていた彼女を思わぬ壁が阻んだ。「夫の転勤」。涙をこぼして退職を申し出る姿に、係長(48)は、やるせない思いでいっぱいになった。 彼女が働く福岡市の大手企業は、子育て中の社員を転勤対象から外している。だが、夫の勤め先にそうした配慮はなかった。 夫を単身赴任で東京へ送り出し、働き続ける道を探ったが、周囲からのプレッシャーに耐えきれなくなった。「妻がついてくるのが当たり前」と考えている夫や義父母。子どもにも「何でお父さんと一緒じゃないの」と言われ、自分の身勝手で家族を犠牲にしているように思えてきた。結局、専業主婦の道を選んだ。 変わらない制度と意識の壁。係長は「せっかく育てた人材を『転勤』によって失った」と肩を落とした。 人事院の2014年調査によると、従業員50人以上の民間企業の8割に転居を伴う異動(転勤)があり、