楷書体フォントという黒船 私が生まれ育ったお寺では、毎月1回、日曜の朝に写経会が開かれていた。 墨と筆で「般若心経」を書き写し、一緒に勤行をし、住職の法話を聞く。 熱心な方は、5年や10年にわたって、欠かさず参加されていた。ご自宅でも写経を重ねられている方もあった。前回の原稿にも書いた通り、写経には大きな功徳があり、病気平癒や先祖供養につながると古くから信じられてきたからである。 私も物心ついたころから、両親の指導もあり、写経会に参加していた。日曜日の朝は戦隊モノのテレビ番組でも見てダラダラ過ごしたかったが、写経会がある週はテレビを早々に切り上げて本堂に向かった。 写経の作法は簡単で、お手本の上に紙を置いてただなぞっていくだけである。とはいえ、ご年配の方々がすらすらと筆を運ぶような域に、すぐに到達できるものではない。慣れない筆で書写するのは、骨の折れる作業だった。一生懸命に書き上げても、そ