形式と構造のことばとしての「数学」 数学とはことばの世界である、などというようなことを前回の記事でかなり強く主張したわけだけれども、じゃあぼくが数学をどれほど理解しているのかというのはまったく別の問題になる。 乏しい知識で語っちゃう浅はかさをお許しいただきたいのだが、20世紀は数学にとって激動の時代だった。なかでももっとも広く知られ、数学の範疇さえこえて多大な影響をおよぼしたのがクルト・ゲーテルの「不完全性定理」だろう。 不完全性定理の発端となるのはダフィット・ヒルベルトによる「数学という体系そのものを数学しよう」という試みだった。ヒルベルトは19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍した大数学者で、「無限ホテルのパラドックス」という無限と有限の概念に関するこれまた有名な思考実験でも知られているのだが、この件に関してもパラドックスが重要なテーマとなっている。 ヒルベルト自身は数学の完全性を信