憲法のたったひとつの条文が濫用されることで憲法自体が死文化するなどということがあり得るのだろうか。もしその条文が、非常時に権力を行政府の長に集中させ、国民の基本権を制限するという緊急事態条項であったとしたら・・・? 本書は、自民党が日本国憲法に加えようとしている緊急事態条項をめぐって、長谷部恭男氏と語りあった対談の記録である。表題の「ナチスの手口」という表現は、現職の副総理で、財務大臣でもある麻生太郎氏が、改憲論議の進め方について公言した「あの手口学んだらどうかね」(二〇一三年七月二九日) に由来する。民主主義国なら決して真似してはならない政治手法に学べというこの言葉の真意は測りかねるが、ナチスが独裁樹立に向けて用いた「手口」のひとつが、ワイマール憲法に規定された緊急事態条項の濫用であったことは間違いない。自民党は、大規模災害・テロ対策、国民の生命と財産を守るために緊急事態条項は必要だとい