その人のことを尊敬していた。いつも明るく振る舞い、人の頼みとあらば暖かな表情でそれを引き受けつつ責任をまっとうする。何かを他人のせいにしたところは見たことはないし、会話の引き出しが豊富で趣味も洒落ている。唯一の欠点がファッションセンスに欠けることだったが、それすら気にならないほど他者には愛される人だった。口を開けば笑いが起こったし、周囲にはいつも人がきが出来た。そんな彼と僕があるときひょんなことからサシでの飲みにゆくことになった。同性にも関わらず彼とのサシ飲みはとても嬉しく、プレミア感あふれる出来事だったと記憶している。程よく酔いが回った頃僕は彼にあることを聞いた。なぜそんなにも他人のために生きられるのですか、といった内容だったと思う。彼はそれを聴いてさして考えるまもなく、それは自分のためだよ。全て自分のためだからやれるんだ、と言い切った。それはつまり他者とは関係なく己の研鑽のためなのです