実家の庭にあるセンリョウの実が赤く色づきはじめる頃を眺めるのが好きだ。このあいだ、縁起のいい、小さな赤い実を見るために実家に立ち寄ったとき母から手紙をもらった。シンプルな白い便箋にかかれた、紙の手紙だ。 母はときどき、あとから思えばそれが人生の節目であることに気づくのだけど、そういうときに、不意打ちのように手紙をくれる。宛名も差出人もない茶封筒に入った手紙。今までに母からもらった何通かの手紙のなかでもっとも僕の心に残っているのは、父が亡くなってから数か月後にもらったものだ。あのときも同じように何も書かれていない茶封筒に入っていた。《お父さんのことは早く忘れてしまいなさい》その簡潔すぎる文章に僕がどれだけ救われただろうか。お父さんの分も頑張れ。お父さんの分もしっかり生きろ。そう、僕のことを案じ、応援してくれる親戚や知り合いからの言葉に感謝しながらも、同時に僕は嫌悪感一歩手前の重苦しささえ覚え