(岩波書店・2916円) 庶民の声が入り乱れ響く記録文学 昨年度ノーベル文学賞の栄誉に輝いたベラルーシの女性ジャーナリスト・作家による、最新にして最大の著書の翻訳である。ノーベル文学賞授与の決め手になった国際的話題作であるだけに、この六○○ページの大著があまり時をおかずに日本語にも訳されたことを喜びたい。 一九一七年のロシア革命によって誕生したソ連という国家は、一九九一年に崩壊し、その後混乱を経て、プーチン政権下の現在に至っている。偏見にとらわれた多くの人たちにとってこの破綻した「悪の帝国」は過去の遺物に過ぎないのかもしれないが、ソ連という国がもともと地上のユートピア建設を目指して作られた、人類史上稀(まれ)に見る壮大な実験国家であったことを忘れてはならない。そしてこの国の歴史は、決して一握りの政…