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  • われわれの行動を光でどこまで制御できるのか──『「こころ」はどうやって壊れるのか~最新「光遺伝学」と人間の脳の物語~』 - 基本読書

    「こころ」はどうやって壊れるのか ~最新「光遺伝学」と人間の脳の物語 作者:カール・ダイセロス光文社Amazonこの『「こころ」はどうやって壊れるのか』は、精神科医として現場に立ちながら、光を用いることで脳の活動を観測や制御を可能にする、「光遺伝学」の第一人者として知られるダイセロス博士による、一般向けのノンフィクションである。 タイトルにも入っているように光遺伝学がどのような分野で、何が解明されつつあるのかについての解説が行われるのはもちろん、博士が実際に関わってきたさまざまな症例の患者たち(大病、躁病や双極性障害、自閉スペクトラム症など)の人生と、それが光遺伝学の観点からどう説明できるのかが語られていく。寄せられている賛辞の中には『を帽子とまちがえた男』などで知られるオリヴァー・サックスの名を挙げるものがちらほらあるが、たしかに傾向としては近い/書き手といえる。 正直オリヴァー・

    われわれの行動を光でどこまで制御できるのか──『「こころ」はどうやって壊れるのか~最新「光遺伝学」と人間の脳の物語~』 - 基本読書
    Seiji-Amasawa
    Seiji-Amasawa 2023/03/04
    “精神科医として現場に立ちながら、光を用いることで脳の活動を観測や制御を可能にする、「光遺伝学」の第一人者として知られるダイセロス博士による、一般向けのノンフィクションである。”
  • 習慣はどうやって形成されるのか?──『習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか』 - 基本読書

    習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか みすず書房Amazonいつも通勤や通学につかっている道は、何も考えずにも動けるぐらいには「習慣」になっているものだ。むしろいつものルートとは別の方角に行く必要がある時、そのことを忘れて「習慣」に引っ張られたりする。われわれは家の鍵をしめる動作をする時に、いちいち右手でかばんの右ポケットから鍵を出して差し込み右に回し──などと意識することもなく、習慣的動作によってほとんどを無意識にこなしている。 もし、習慣を脳に形成する力がなかったら、生活は面倒くさいものになるだろう。一方で、タバコや薬物のように、悪い習慣が形成されてしまう危険性もある。こうした習慣は、脳のどのようなプロセスによって形成されるのか? また、その仕組がわかるのなら、習慣を変えることもできるのではないか? そうした問いが連続していくのが、書『習慣と脳の科学――どうしても変

    習慣はどうやって形成されるのか?──『習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか』 - 基本読書
  • 異種移植の歴史と未来を語る本──『異種移植――医療は種の境界を超えられるか』 - 基本読書

    異種移植――医療は種の境界を超えられるか 作者:山内一也みすず書房Amazon現代は臓器が損傷を受けたり病気で蝕まれた時、臓器移植という手段をとることができる。とはいえ、問題は多い。拒絶反応が起きないように考慮する必要があるし、そもそも臓器が欲しい人に行き渡るのに十分なほどの臓器が存在しない。日では心臓は約3年、肝臓は約3年、肺は2年半、腎臓に至っては15年もの平均待機期間がある。 そうした問題点を(部分的にしろ)解決する方策の一つとして見られているのが、異種移植だ。ヒヒやブタなど、ヒト以外の動物の体(異種)、その臓器を用いて、人間に臓器を移植する技術であり、これができれば臓器移植用のブタを特別に育てるなどして、臓器移植を必要とする患者のために、安定的に臓器を提供できる体制を整えることもできる。もちろん、これは一般的とはいいがたい技術であり、そうした単純なアイデアを実行するためには倫理的

    異種移植の歴史と未来を語る本──『異種移植――医療は種の境界を超えられるか』 - 基本読書
  • 「異常」と「正常」はどうやって生み出されてきたのか──『誰も正常ではない――スティグマは作られ、作り変えられる』 - 基本読書

    誰も正常ではない――スティグマは作られ、作り変えられる 作者:ロイ・リチャード・グリンカーみすず書房Amazon近年、ADHDや自閉症、うつ病などの精神に関わる病にかかること、かかったことを周囲の人間に伝えることは徐々に当たり前のものになりつつある。精神病は誰でもかかりうるものであり、うつ病はこころの風邪であって、調子が悪いときにはメンタルクリニックに行けばいいのだと、特に若い世代を中心にして認識が変わってきた。 数世代前までは自閉症やうつをカミングアウトすることには重いスティグマが伴ったことを考えれば、大きな変化である。スティグマとは汚名や烙印を指す言葉だが、ようはそれを公表したり、バレたりすることで自身の恥、不名誉となり、解雇や排除されたりといった相当な不利益を背負うもののことをさす。現状、精神病に関する認識は変わってきたとはいえ、まだスティグマは残っていて、誰もがおおっぴらに公表でき

    「異常」と「正常」はどうやって生み出されてきたのか──『誰も正常ではない――スティグマは作られ、作り変えられる』 - 基本読書
    Seiji-Amasawa
    Seiji-Amasawa 2022/05/21
    “たとえば精神病者を脳内化学物質のアンバランスさや異常な脳神経回路を持つ人として捉えると、生物学的にその人を恐れなければならない理由、恒久的な障害を持つ人として見るべき理由を与えることになる。”
  • 脳内で地図を作成する能力が衰えていくと、何が起こり得るのか?──『失われゆく我々の内なる地図 空間認知の隠れた役割』 - 基本読書

    失われゆく我々の内なる地図 空間認知の隠れた役割 作者:マイケル・ボンド白揚社Amazon少なくとも移動という点において、現代は素晴らしい時代になったといえるだろう。僕は相当な方向音痴で、スマホのナビアプリがない時代は目的地にたどり着くのは難しいことだった。地図をみずに目的地にたどりつけないのではなく、場所を事前にネットで検索し、地図を印刷してそれをみながら歩いても、たどり着けないのだ。 その弱点が牙を向いてきたのは就活時代で、その当時iPHoneにはいちおう地図アプリがあって、僕も入れていたが、ゴミのような性能だった。パチンコガンダム駅とかいう意味不明な駅が爆誕していたり、羽田空港が大王製紙になっていたり。とにかくひどい有様で、今のような安心感は微塵もなかった。そんな就活をしていた時代に、1日に2、3個予定を詰め込んで会社説明会をはしごしていたのだが、そうすると駅を降りて15分ほどの短い

    脳内で地図を作成する能力が衰えていくと、何が起こり得るのか?──『失われゆく我々の内なる地図 空間認知の隠れた役割』 - 基本読書
    Seiji-Amasawa
    Seiji-Amasawa 2022/05/21
    “人は自由な遊びを通じて、空間に対する不安を感じにくくなり、ウェイファインディングに巧みになる。”
  • 知能の仕組みを解き明かし、人間を超えた汎用人工知能やマインドアップロードの可能性まで考察する──『脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論』 - 基本読書

    脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論 作者:ジェフ ホーキンス早川書房Amazon人間は日々新しいことを学び続けている。民主主義についてや数学の理論など複雑な概念に限った話ではなく、たとえばアプリをダウンロードしたらその使い方を学ぶだろう。道を歩けば、こんなところにハンバーガー屋や眼科ができたんだな、と気がつき、日々頭の中の情報、世界のモデルは書き換わっていく。 それらは、必死になって英単語を覚えるように努力して覚えるようなものではなく当たり前のように行われることなので、特に高度なこととは思えない。しかし、人間のそうした自律的な学習機能がプログラム上でそう簡単には実現できていないことからもわかるように、実際には相当に複雑なことをやってのけているのである。では、我々の脳の中では、そうした偉業がどのようにして成し遂げられているのか? 書『脳は世界をどう見ているのか』

    知能の仕組みを解き明かし、人間を超えた汎用人工知能やマインドアップロードの可能性まで考察する──『脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論』 - 基本読書
  • 注意スキーマ理論を通して、意識を再考する──『意識はなぜ生まれたか――その起源から人工意識まで』 - 基本読書

    意識はなぜ生まれたか――その起源から人工意識まで 作者:マイケル・グラツィアーノ白揚社Amazonこの『意識はなぜ生まれたのか』は、ブリンストン大学神経科学・心理学享受のマイケル・グラツィアーノによる意識研究についての一冊である。原題は『Rethinking Consciousness』、意識再考とか意識についてもう一度考え直すといったタイトルで、注意と意識の関係、またその区別する方法について。どうやったら工学的に意識を再現できるか? をグローバル・ワークスペース理論などと共に解説していく。 230ページほどの短い文の中に、意識と神経科学をめぐる話題とこれから先、人工意識や人間のマインドアップロードが実現したときに未来の社会はどう変わるのか? という未来予想までが詰め込まれていて、満足度の高いである。意識の話は一般向けでも専門用語が乱立しハードルが上がりがちだが、書はたとえ話も豊富で

    注意スキーマ理論を通して、意識を再考する──『意識はなぜ生まれたか――その起源から人工意識まで』 - 基本読書
  • 頭の中で、日々どのような対話が行われているのか?──『おしゃべりな脳の研究――内言・聴声・対話的思考』 - 基本読書

    おしゃべりな脳の研究――内言・聴声・対話的思考 作者:チャールズ・ファニーハフみすず書房Amazon多かれ少なかれ、誰もが「頭の中での対話」をしたことがあるはずだ。明日何べようかな〜という問いかけ・対話を通して答えを導き出そうとする対話的思考から、なにかにチャレンジする時に「お前はできるお前はできるお前はできる」と自己暗示のように自分に語りかけることもあるだろう。物語を読んでいるときは、登場人物の声が頭の中で反響している人もいるはずだし、作家ならばなおのことそうだろう。 書『おしゃべりな脳の研究』は、そうした頭の中で鳴り響く声、セルフトークについて書かれた一冊だ。誰もが似たようなことは経験しているとはいえ、それはあくまでも主観的な体験であり、その内実はみな大きく異なっている。内なる言葉が明確に言語化可能な人もいれば、逆にぼんやりとしたイメージのようなものでで言語化不可能な人もいる。内言

    頭の中で、日々どのような対話が行われているのか?──『おしゃべりな脳の研究――内言・聴声・対話的思考』 - 基本読書
    Seiji-Amasawa
    Seiji-Amasawa 2022/04/21
    “目覚めている時間の4分の1〜5分の1ほどの時間(3〜4時間)もセルフトークが行われているとすれば、そこで何が起こっているのかを解き明かす意味は大きい。”
  • ロシアの大規模な工作活動、個人情報の流出などフェイスブックの数々の失態はなぜ起こってしまったのか?──『フェイスブックの失墜』 - 基本読書

    っzr フェイスブックの失墜 作者:シーラ フレンケル,セシリア カン早川書房Amazonフェイスブックは今なおSNSでは最大の存在感を誇るが、もちろん完璧なサービスというわけではなく、トラブルや批判は特にこの5年間で頻発している。ユーザ情報の流出、広告のために執拗にユーザをトラッキングしようとする姿勢への批判。表現の自由を理由にヘイトスピーチやフェイクニュースを取り締まろうとしない姿勢、国家ぐるみの工作活動の展開(フェイスブック上で)など、とにかく問題は数多い。 軸足をメタバースに移そうと社名を「メタ」に変更するも、現状この領域も売上に関してはそこまで見通しが明るいわけではない。いったい、フェイスブックで何が起こってこのような状態になっているのか? 書『フェイスブックの失墜』はその原因を、多数の関係者への調査によって明らかにしていく一冊である。 多くの人は、フェイスブックを「行き先を見

    ロシアの大規模な工作活動、個人情報の流出などフェイスブックの数々の失態はなぜ起こってしまったのか?──『フェイスブックの失墜』 - 基本読書
  • 造語「メタヴァース」を生み出し、数々の起業家の世界観に影響を与えた伝説のSFがついに復刊!──『スノウ・クラッシュ』 - 基本読書

    スノウ・クラッシュ〔新版〕 上 (ハヤカワ文庫SF) 作者:ニール スティーヴンスン早川書房Amazonこの数年メタヴァース=仮想現実が盛り上がっている。Facebookが社名を「Meta」に変更し、OculusQuestやVRchatが普及し、フォートナイトでのライブ・生活体験が当たり前になり、仮想空間上での会議や共同作業など、実生活でもメタヴァース関連の話題が上がることが増えてきた。その背景には新型コロナの蔓延によって対面での接触機会が減少したり、技術が発展したことで機材が安価になり、仮想空間の描画力が増し、できることが増えてきたからなど複数の理由が絡んでいるのだろう。 森博嗣『すべてがFになる』の中で、天才科学者真賀田四季は、西之園萌絵に『博士……。博士のご研究の一つ、仮想現実の技術は、どんな役に立つのでしょう?』と聞かれ『「当に話が飛びますね。仮想現実は、いずれただの現実になりま

    造語「メタヴァース」を生み出し、数々の起業家の世界観に影響を与えた伝説のSFがついに復刊!──『スノウ・クラッシュ』 - 基本読書
  • 弾圧が行われているとされる新疆ウイグル自治区で、実際に何が行われているのか?──『AI監獄ウイグル』 - 基本読書

    AI監獄ウイグル 作者:ジェフリー・ケイン新潮社Amazonこの『AI監獄ウイグル』は、近年弾圧が激しくなっているとされるウイグルで、実際に何が行われているのか、150人以上のウイグル人の難民、技術労働者、政府関係者、元中国人スパイにインタビュー取材をしその結果をまとめた一冊になっている。 書で描き出されているのは、チャットアプリによるメッセージや電話がすべて監視され、家の前には個人情報が詰まったQRコードが貼られ、身体情報から移動履歴などすべてのデータを元に犯罪を起こす可能性のある人物をAIが自動的にピックアップする「デジタルの牢獄化」したウイグルの姿である。これまで、断片的なニュース情報を読むことでウイグルで相当なことが行われていることはわかっていたつもりだったが、実際に収容所などを体験した人物のレポートはあまりにも衝撃的だ。 読み終えた夜は、自分が強制収容所に入っている悪夢を見たぐ

    弾圧が行われているとされる新疆ウイグル自治区で、実際に何が行われているのか?──『AI監獄ウイグル』 - 基本読書
  • なぜ年をとるほど時間は速くなるのか?──『WHY TIME FLIES:なぜ時間は飛ぶように過ぎるのか』 - 基本読書

    WHY TIME FLIES:なぜ時間は飛ぶように過ぎるのか 作者:アランバーディック東洋館出版社Amazonこれを書いているのは11月22日だが、あと一週間ちょっとしたら12月、すぐに2022年がやってくる。この1年をあっという間に感じた人もいるだろうし、長かったなあと振り返る人もいるだろう。時間の感じ方は人によって異なり、若いときほど時間の流れはゆっくりで、年をとればとるほど速くなるとはよく言われるところである。 書『WHY TIME FLIES』は、そうした時間の謎について書かれた一冊だ。歳をとると時間の感じ方が早くなるのは当なのか? 「時間を感じる」のは脳のどの部分のおかげなのか? 人間以外の動物は時間を認識しているのか? など、人のみならずラットやシアノバクテリアといった他動物の時間感覚まで射程を広げている。 著者のアランバー・ディックは研究者ではなく、ニューヨーク・タイムズ

    なぜ年をとるほど時間は速くなるのか?──『WHY TIME FLIES:なぜ時間は飛ぶように過ぎるのか』 - 基本読書
  • 謎の信号によって人類のDNAがハッキングされ、「終局」に至る様をノンフィクションとして描き出す、ファーストコンタクトSF──『ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日』 - 基本読書

    ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日 (竹書房文庫) 作者:キース・トーマス竹書房Amazonこの『ダリア・ミッチェル博士の発見と異変』は、2023年に銀河系のはるか彼方から届いたパルスが人類にぶちあたり、そこから一部の人々が重力波を見ることができるようになったり、知的能力が向上したりといった、一種のアップデート、進化(誤用)が行われてしまった世界について描かれたファーストコンタクトSFである。 特徴的なのは、作はそうした状況を誰かの目を通してリアルタイムで体験していくのではなく、2023年からはじまった一連の騒動が終わり、「終局」を迎えたあとの2028年に刊行されたノンフィクションという体裁で進行していくところにある。このノンフィクションは、元大統領からジャーナリスト、研究者まで様々な立場の人間の証言を元に構成されていて、読み進めていくうちに、「終局」とは何を

    謎の信号によって人類のDNAがハッキングされ、「終局」に至る様をノンフィクションとして描き出す、ファーストコンタクトSF──『ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日』 - 基本読書
  • 嗅覚が軽んじられるのはなぜなのか?──『においが心を動かす; ヒトは嗅覚の動物である』 - 基本読書

    においが心を動かす; ヒトは嗅覚の動物である 作者:A・S・バーウィッチ河出書房新社Amazonにおい、嗅覚というのは五感の中でもわりと軽視されがちというか、仮に何か一つ感覚を消滅させられるとしても、視覚、聴覚と比べたらなくなっても構わないかな……飯をって味は感じ取れるわけだし……というぐらいの立ち位置の存在だと思う。 が、いやいやそんなことはない、たしかに視覚も聴覚も重要だが、嗅覚はあまり意識にこそ登らないものの、人間において非常に重要な働きをしているのである、という話が展開していくのがこの『においが心を動かす; ヒトは嗅覚の動物である』である。意識しなくてもにんにく、焦げくささ、尿、うんこなど我々はかなり多くのにおいを自由自在にかぎわけてみせるし、しかもどこから漂ってきているのか、方向を知覚することまでできる。明確な形でにおいを表現できなくてもおばあちゃん、おじいちゃんちのにおい、と

    嗅覚が軽んじられるのはなぜなのか?──『においが心を動かす; ヒトは嗅覚の動物である』 - 基本読書
  • 能力主義信仰を問い直す『実力も運のうち』から、物理学に美しさは必要か? と批判的に切り込む『数学に魅せられて、科学を見失う』までいろいろ紹介! - 基本読書

    の雑誌459号2021年9月号 の雑誌社Amazon はじめに の雑誌に書いているノンフィクションガイド連載の原稿(2021年6月)を転載します。毎月書いていると今回はけっこうしっかりしてるな、とか今回は(公言はしないけど)薄味だな、とかいろいろ思うところがあるんですが、この号は密度が濃い月。 ちなみに、2021年09月号が今最新の号ですが、こちらでは海外ノンフィクション特集ということで、僕はこの連載に加えて21世紀の海外ノンフィクションの中からベスト的な50作を選んでみよう!(書評家の東えりかさん、編集部の杉江由次さん、僕の3人で) という座談会に出てその模様が収録されています。この連載でも僕は取り上げるのはほとんど海外ノンフィクションなので個人的にもかなり好きな号です。 50作は多いっちゃ多いけど少ないっちゃ少ないので、網羅的で完璧なリストを目指すのではなく(そんなのは不可能)、

    能力主義信仰を問い直す『実力も運のうち』から、物理学に美しさは必要か? と批判的に切り込む『数学に魅せられて、科学を見失う』までいろいろ紹介! - 基本読書
  • グーグルやフェイスブックによって、人間性が強奪される未来についての警告──『監視資本主義: 人類の未来を賭けた闘い』 - 基本読書

    監視資主義―人類の未来を賭けた闘い 作者:ショシャナ・ズボフ東洋経済新報社Amazonこの『監視資主義』は、ショシャナ・ズボフによって書かれた資主義と人類文化の未来についてを扱った壮大なテーマの一冊である。壮大なのはテーマだけでなく、文600ページ超え、注釈で+150ページ、値段6000円超えとあらゆる意味でヘビィ。ファイナンシャル・タイムズのベストブックオブジ・イヤーに選ばれ、netflixでドキュメンタリーも公開されるなど、アメリカでは話題になっているである。 www.netflix.com で、話題はともかく監視資主義って何なのよ、ってことさえわからないままに読み始めたのだけれども、これが想像していたよりももずっと射程の長い話で、おもしろかった。想像していたのはグーグルやフェイスブックのような企業が我々のプライバシーを金に換金している!! みたいな話で、実際、その想像通り

    グーグルやフェイスブックによって、人間性が強奪される未来についての警告──『監視資本主義: 人類の未来を賭けた闘い』 - 基本読書
  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し、サイボーグになることを選んだ男──『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン: 究極の自由を得る未来』 - 基本読書

    NEO HUMAN ネオ・ヒューマン―究極の自由を得る未来 作者:ピーター・スコット・モーガン東洋経済新報社Amazon ALSという病 筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病気がある。体が徐々に動かなくなっていき、最終的には自発的な呼吸も行うことができず、意識は明瞭で、感覚も残ったままにも関わらず、目以外(こちはも最後まで残るだけで弱まっていくようだ)のすべてが動かせなくなってしまう病気で、現在治療法は皆無である。進行もはやく、人工呼吸器なしでは余命は3〜5年ほど。日ではさまざまな理由から、約7割の人が人工呼吸器をつけずに亡くなるという。 現在の日では、一度人工呼吸器をつけたら、たとえ死にたいと思ってもそれを意図的に外すことは難しい。2020年には、ALSの女性の依頼によって医師2名が薬物を投与し死に至らしめた事件も話題になった。ニャンちゅうの声優である津久井教生さんの連載を読んだこと

    筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症し、サイボーグになることを選んだ男──『NEO HUMAN ネオ・ヒューマン: 究極の自由を得る未来』 - 基本読書
  • モルモン原理主義者の思考から大学に行くことで免れた『エデュケーション』から、なかったことにされてきた女性たちを浮かび上がらせる『存在しない女たち』まで色々紹介!(本の雑誌掲載) - 基本読書

    はじめに の雑誌2021年2月号掲載の原稿を転載します。月によってオススメのの冊数にもオススメ度にも変動があるわけだけれども、今回取り上げた原稿はおもしろいものばかり。特に『エデュケーション』の凄まじさ、『存在しない女たち』が明かす「なかったことにされている女性たち」の衝撃、アルゴリズムに戦いを挑んだ男のノンフィクション『フラッシュ・クラッシュ』とかなりの粒ぞろいだ。 の雑誌2021年2月号掲載 エデュケーション 大学は私の人生を変えた 作者:タラ・ウェストーバー早川書房Amazon教育は人をどれほど変えうるのか。それをまざまざと実感させてくれるのが、タラ・ウェストーバーによる回顧録『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』(村井理子訳/早川書房)だ。大学が人生を変えるのは当たり前だろ、といぶかしみながら読み始めたのだけれども、著者が置かれている状況は普通ではない。彼女の両親はアラ

    モルモン原理主義者の思考から大学に行くことで免れた『エデュケーション』から、なかったことにされてきた女性たちを浮かび上がらせる『存在しない女たち』まで色々紹介!(本の雑誌掲載) - 基本読書
  • 我々が宇宙で暮らすためには何が必要なのか?──『スペース・コロニー 宇宙で暮らす方法』 - 基本読書

    スペース・コロニー 宇宙で暮らす方法 (ブルーバックス) 作者:向井千秋,東京理科大学スペース・コロニー研究センター講談社Amazon近年、イーロン・マスク率いるスペースXや、アマゾンのジェフ・ベゾスのブルー・オリジンなど、民間の宇宙関連企業が大きく伸びている。国家的事業として中国の宇宙開発も加速しているし、火星に人を送り込む計画も、月に恒常的な人類拠点を作り上げる計画も、今や現実。10年〜30年単位の未来で実現が目論まれている状況だ。 たとえば、米国は2024年までに再び人類を月面に立たせ、火星など深宇宙探査への拠点として月周回軌道に小型の宇宙ステーションを構築する「アルテミス計画」を動かし、2030年代に火星有人探査も目標としている。月旅行はもはや夢物語ではない。 そうなってくると、我々が宇宙で安定的に暮らすためには何が必要なのか、という問いかけがますます重要になってくる。国際宇宙ステ

    我々が宇宙で暮らすためには何が必要なのか?──『スペース・コロニー 宇宙で暮らす方法』 - 基本読書
  • 数学概念が人類に生まれつきそなわっていないことを示す、数と言語人類学──『数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた』 - 基本読書

    数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた 作者:ケイレブ・エヴェレット発売日: 2021/05/08メディア: 単行 はじめに 数の概念は、生まれつき備わっているものではない 数の概念がないなんてことがあるのか? 1〜3 おわりに はじめに 『ピダハン──「言語能」を超える文化と世界観』という、左右や数字の概念を持たない珍しい言語の持ち主であるアマゾンの少数民族について書かれたノンフィクションがある。この、少数民族の話ながらもそこからチョムスキーの言語能否定の話や、幸せとは、文化とは、宗教とは、といった話に繋がっていく普遍的な話を展開しており、そのユーモア溢れる筆致もあって世界的に話題になっていった。 今回取り上げたい『数の発明』は、その『ピダハン』の著者ダニエル・L・エヴェレットの息子、ケイレブ・エヴェレットによる著書である。親子揃って言語学者とは凄いが、ケイレブは父親であ

    数学概念が人類に生まれつきそなわっていないことを示す、数と言語人類学──『数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた』 - 基本読書