「日食」は月の影に遮られた太陽が欠けて見える現象だが、近年存在を大きくしてきたオーディオブック(音声出版)が、今年はE-Bookを「逆転」した。昨年の米国A-Book市場は12億ドルで、前年のE-Bookの数字(9.83億ドル)を上回った。在来出版が「ロックダウン」状態にある中で、音声出版の独走には注意が必要だ。 出版メディアの序列が変わった? 音声出版と文字出版の数字の単純比較じたいは大きな意味はないが、文字と音声が競り合うことは、マーケティング的に影響が大きい。問題は、テクノロジーとメディアとコミュニケーションの転換期であるにもかかわらず、新しい現実に即したコンテンツとユーザーを考える動きが鈍いことで、それだけチャンスは広がっているということだ。Good eReaderのマイケル・コズロウスキ氏は、今年前半でのオーディオブック市場の総括レポートを提供している (06/20)。 Edis
米国の書店の大半が閉店するなかで、出版界の期待は、オーディオブックとサブスクを除けば、E-Bookと既刊本、オンラインとの3つとなっている。しかし、これらの再刊は容易でも、販促も含めた読者(オーディエンス)へのアクセスを確保していなければ即効性はない。そこにフォーカスしたビジネスを展開してきたのが、オープンロード社 (Open Road Integrated Media: 以下ORIM)だ。 データマーケティングの成熟:本から読者へ ORIMは近年、メール(ニューズレター)によるジャンル別マーケティングをサービス化することで収益を拡大している。今年最初の四半期は、前年同期比で50%増の売上を達成したことを Publishers Weekly (By Ed Nawotka, 04/09)が伝えている。 ORIMが販売するのは、約2000人の現代作家/著者による1万点のタイトル。そして、他の出
米国の音楽産業協会 (RIAA)のミッチ・グレイジャーCEOが Medium (02/26/2020)に「持続可能な成功への道」と題した記事を寄稿し、デジタル転換の10年 (2009-2019)を回顧している。 (1) ストリーミング化に伴う停滞からの回復を実現した、(2) 長期の持続的成長を実現するためには、さらに社会性の向上 (public policies)が必要と述べているが、出版にとって参考になる。 10年で社会の「潜在成長力」を実現 米国の2019年の音楽産業の規模は前年を20%あまり上回る111億ドルを記録し、79%をストリーミングが占めたが、他方で永久ダウンロード(販売)は8.56億ドルで、2015年の23億1400万ドルの半分以下となった。もちろん成長を支えているのは、全成長分の推定93%を占めるサブスクだ。出版でいえば、書店がオンラインストアのE-Book置換えられてい
米国の出版専門誌Publishers Weeklyは、インディーズ作家を対象とした有償の書評サービスを始めた。BookLifeという自主出版支援サイトの上で、PWの書評専門ライターがPW誌とは別個に記事を担当するもので、著者がポケットマネー(?)で依頼する形をとる。書評出版物が有償で書評を行うことは、これまでになかったことだった。 創業150年の書評誌がインディーズのための書評サービス それというのも(後述するように)PWの"Reviews" はその「予見」の確かさの故に1940年代以降の米国出版界で「権威」としての響きがあり、その"Forecasts." は数多くの名著、ベストセラーを紹介し、書店や図書館、教養人に大きな影響力を持った。推薦書が売れたからだ。当然にも出版社は広告出稿を競い、ともに繁栄した。しかし、20世紀の繁栄はそのままは続かない。本も雑誌も、紙のメディアはほぼ同じ速度で
アップルが先月発表した 「Apple News+」に2つの有力紙(New York Times と Washington Post)が「不参加」を表明した。NYTは「読者との直の関係」を重視、WPは「意味をなさない」とした。それぞれ独自のデジタル戦略と取組んできた両社にとって「メタデータ」が使えない情報発信は無意味だと見られている。 いまだ見えないニュースメディアのデジタル化問題 「ニュースメディアのデジタル移行問題」は10年を経てもまだ決着がついていない。すでに廃刊した新聞や雑誌も少なくないし、Webメディアに転換したものもある。Webの登場から25年以上になり、もはや紙に戻れなくなってもまだ定まらない。それはテクノロジーではなく、人間の活動と精神の基盤となるエコシステム(生活)の問題だからだ。ニュース・ビジネスは非常に精密なシステムだったから、エコシステム丸ごとの再構築は不可能に近い。
[EB2Magazineマンスリー4月号] 出版にとって「デジタルの衝撃」が何であったかは、米国でも立ち位置によって、見え方は大きく異なる。しかし、出版市場における最大のサプライズは、誰が見ても「オーディオブック」だろう。これが一つのフォーマットという以上の存在となると考えた人は少ないと思われる。筆者もその一人だ。[全文=♥会員] ※特別公開4/10まで 読書における「モード」 録音・再生技術で音声読書をサポートする商品は、1世紀以上前から存在し、カセットテープやCD-ROMを媒体として一定の存在ではあり続けたものの、それはつねに紙の本の影の存在で、目が使えない時のものだった。専用のツールを必要とし、もちろん安くはなかった。それ以上に大きいのは、「視覚読書能力」をデフォルトとして個人や社会が形成されてしまったことだ。聴覚のほうは職業的にアンバランスな場合が多く「無用」という人もいる。 しか
自主出版の10年を回顧して、GoodeReader (02/20)のマーシー・ピルキントン編集長が「出版契約の夢は死んだのか?」という興味深い記事を書いているので紹介してみたい。こういうタイトルが、出版コンサルタントとして活動する同氏から浮かぶとすれば軽いことではないだろう。21世紀に出版社とは何か。それはどうもおカネではないようだ。 自立した著者 自主出版は、将来ある著者にとって「死の接吻」「狂気の沙汰」とまで呼ばれた「自費出版」 (vanity publishing)から自己を区別するという苦闘の中から出発し、デジタルとWebによって新しい場所を確保した、という書き出しから、話は始まる。欧米社会の「本/出版」の社会的地位は特別なもので、クリエイター、キュレーター、プロデューサーである専門家の協力/仲介を経ずに公開 (publish)することは、「将来を失う」とまで警告されたのだ。今日で
アマゾンジャパンは1月31日、取引出版社(現在約3000社)との間で「買切条件で仕入」、同時に「自動発注システム」を全商品に対して試行するという新方針を記者会見で発表した。返品率を現在の20%から引下げるのが目標というが、在庫品の値下げ販売(協議制)を含んでおり、事実上の「卸販売」への移行を意味する。 アマゾン「買切制」になぜ出版社は「歓迎」したのか? 「今回のアマゾンの方針に関して、出版社からは歓迎の声があがる。」と日経新聞 (2/2)は(これまで聞かなかった)声を伝えている。「取次制度」に対する不満や批判は出版社にとってタブーとされていた。また「返品率の改善は業界全体のテーマで、アマゾンが買い切りを本格的に始めることで、既存の書籍チェーンも取り組みやすくなる」という大手書店チェーン幹部が「打ち明け」たことも伝えた。要するに取次は日本の出版界にとって「十字架」であり、重荷になっていたのだ
出版におけるデジタルが「フォーマット」だけに止まらないことは本誌がしつこく言ってきた。とはいえ、そこを越えなければ何も始まらないことも動かし難かった。Kindleの10年は、版に縛られたグーテンベルク以来の出版がもはや規範ではなく、回帰も不可能であることを示した。最初に独立したのはオーディオブックだが、影の主役が「スマート」であったことは見逃せない。 顧客第一に最適化したアマゾンのAI 筆者は「ダイナミックでインテリジェント」な出版を目指してきたのだが、これらのキーワードはもっぱらWebで進化し、有償コンテンツ(商業出版)ではほとんど進まなかった。Kindleは積年の課題をほぼ解消したが、そのやり方は既存の出版エコシステムの外に新しい(仮想的)出版=読書空間を構築するという予想外のものだった。それを可能にしたものこそ「スマート=AI」である。アマゾンのAIは「顧客第一」という明確なフォーカ
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