彼の頭蓋骨内から発見された黒く光沢のある物質は、外見的に黒曜石に似ており、電子顕微鏡による観察では神経細胞やニューロン、軸索などの脳の微細構造が例外的に良好に保存されていることが判明した。 通常、有機組織がガラス状に保存されるためには、液体窒素による極低温での急速冷却(凍結保存)が必要とされる。有機組織は水分を多く含むため、自然界の常温では液体状態に戻り、保存されることはない。 しかし、研究チームが示差走査熱量測定(DSC)やラマン分光法などの分析を行った結果、この脳組織は510℃以上の高温でガラス転移(ガラス化)したことが判明した。研究チームは、この特異な現象が生じた過程を下記のように説明している。 「西暦79年のヴェスヴィオ火山噴火の初期段階で、非常に高温(510℃以上)の希薄な火山灰雲が短時間通過し、犠牲者の体を瞬時に加熱した。頭蓋骨や脊椎の厚い骨が脳組織を直接的な接触から部分的に保
