はじめに 時代の空気 自由主義神学は西洋文明によって、世界は進歩していくという楽観的な時代の空気のなかに生まれた。リッチュルの教えた「神の国」は、その典型である。彼らは人間の当面の不完全性も道徳の教師イエスを模範とすることによって克服され、地上には神の国が到来すると信じたのである。19世紀、すでに預言者的な哲学者キェルケゴールはすでに、近代の欠陥を感じ取っていたのであるが。いや17世紀の思想家パスカルも、そうであった。 ところが、二十世紀を迎え二つの世界大戦によって、人間と文明に対する楽観主義は決定的な打撃を受けた。思想界においてもシュペングラーの『西洋の没落』というような本が登場する。また第二次大戦におけるナチズムのなしたことは、人間というものの底知れぬ罪深さを我々の前に暴露した(フランクル『夜と霧』は必読) 。近代と現代の世界ではともに科学的合理主義が支配的であるが、近代人と現代人には