パルミラは、世界でも最も美しい遺跡の一つであることに間違いはない。そして歴史的に、考古学的に如何に重要であるか、ということは私が改めて言う必要はない。世界遺産というブランドすら、パルミラには不要。パルミラそのものがあまりにも素晴らしい。 ダマスカスから2時間半ほど、砂漠の中の街道を車に揺られたあと、遥か彼方にナツメヤシの林と暖かな風合いの石灰岩の列柱が見え始める。時間の枠を自然にすり抜けたような感覚に襲われる瞬間。 パルミラには、説明のつかない至福感をもたらしてくれる何かがあった。 今回、ISがパルミラの町を制圧し、さらに遺跡をも制圧したというニュースは、世界中の危機感をかき立てた。イラクでの遺跡の大規模な破壊を受け、この危惧は極めて当然だろう。 私も、ISがパルミラに接近しているというニュースが流れた段階で、非常に動転した。あらゆるメディアで、パルミラ遺跡の危機が叫ばれた。ただ奇妙なこと