虫が怖かった。 Cから始まるものは言わずもがな、目を凝らして見つかるようなものも、カブトムシもクワガタムシも、ガもチョウも区別なく怖い。 できるなら「虫」の字を見かけることもしたくない。(アルファベットも避けたかった) 犬と猫は平気だった。 外で遭遇したり、一緒に信号の転換を待ったり。 けど、ともに暮らすことを考えると、鳥肌が立つような心地がした。 ペットを飼いたくない気持ちが、ずっと頭の片隅にあった。 飼い主には、飼い主としての責任が生じるという。 人生を振り返ってみると、私ではその責任を負えないような気がしていた。 虫が怖い理由も知っていた。 小学生のころ、父親が虫を踏み潰してみせたことがある。 私は、いつまでもその記憶を忘れることができない。 今でも夢に見る。 父親が靴で踏みつけて遊んだ虫が、復讐のために私の前に姿を現すのだ。 一時期は、何にしろ虫を目にするたびに夢を見た。 夢を見る