5月、ある金曜日の午後、パリで取材に応じたナターシャは、クロエ(CHLOÉ)のクリエイティブ・ディレクターに就任して6週間がすぎたところだった。その日の予報は雷雨で、パリ8区に位置する高級ホテル、ラ・レセルヴの豪奢な敷地内の空気はじっとりと重かった。しかし他の食事客たちが手で顔を扇ぎ、ウェイターに冷たい水を注文する中、ナターシャはあくまで涼しげだった。「クロエに選ばれたのは、私にとってはとても自然なことだったの」と彼女は肩をすくめ、ベルベットのソファに身を預けた。「このポジションに就く力は十二分に持っていたから」 彼女はまだ完成前の洞窟じみたメゾン クロエでの『VOGUE』の撮影を終えたところだった。メゾン クロエは5階建ての建物を改築した野心的プロジェクトで、ペルシエ通りのクロエ本社からわずか30秒の距離にある。建物内にはオスマン様式の部屋がずらりと並び、アーカイブや企画展示、イベントス