最期の仕事は予定してたよりも2時間ほど早く終わった。靴やスソに付着した泥を掃って軽トラに乗ってエンジンをかけると、ハンドルの向こうでデジタル時計がパッと点灯した。 午後3時21分。 「いろいろ説明することがあるから、社長が会社に寄ってくれって言ってたな」助手席に乗った吉本隆志さんが確認するように言った。 「ええ。何かあるんですか?」と僕は短く応えた。 「さあ。俺も知らないんだ。社長は何も教えてくれなかった」 有限会社よしもと総業は、今日倒産する。吉本不二雄社長からそう聞かされたのは、1か月ほど前だった。 「オヤジが創業してから、84年。まあ、がんばったほうだなあ」と社長がいつになく感慨深そうに言っていたのが印象的だった。 ちなみに助手席に乗っている隆志さんは、現社長の次男。 僕は高校卒業後によしもと総業に就職して、ちょうど10年になる。建設業の下請けで、バリバリの肉体労働。夏は暑くて冬は寒
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