伝統あるイギリスの新聞は日本と違い政治や社会についての論説を旨とし、殺人や強盗といった犯罪をデカデカと報道することなどない、まして裁判で有罪が確定してもいない段階で逮捕された容疑者のことを書き立てたり、被害者の私事を暴露したりなどあり得ない――そんな「常識」が広く流布している。「日本の新聞は所詮瓦版、下世話なのぞき見趣味なのだ」「真のジャーナリズムは日本にない」と、手厳しい非難の言葉が続くこともある。 確かに、日本とイギリスでは事件報道の仕方が違う。 イギリスのほうが激しいのだ。 日本の報道機関で長く社会部記者をしてきた私がその違いを感じ始めたのは、インターネットで海外の新聞を気軽に読めるようになった頃からだった。英語圏の新聞サイトを読むと、「あれ、これを書いちゃうのか」と思わずつぶやく。これらの新聞では、人の名前を匿名にしたり、残酷で生々しい事実関係をぼかした表現に抑えるというような措置
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